『ハート・オブ・シティ』 下の13


 それは、もう、おもいっきり妖しかった。


 空気は淀み、息苦しかった。


 人々は、なにかわけわからない祈りを捧げているようだ。  


 『うんじゃあ。まいやら。うんじゃあ。まいやら。うんじゃあ。まいやら。………』


 『どうなってるんだ、これは。』


 赤血警部補は、気分が悪かったが、それは、らんぼう刑事も同じだった。


 つまり、こうだ。


 ここに集まっている人々は、その毒気に素直に当てられたが、このふたりは、受け入れていない。と、いうわけである。


 祈りの中心にいて、机の上に立ち上がり、両手を広げて、あり得ない天を見上げている、欧州風の僧服の男がある。


 映像でみた人である。


 『あいつ、へんですね。』


 らんぼう刑事が言った。


 『みだりに、へんと言うな。人権に関わる。変わった人だ。』


 『同義です。』


 すると、男は(あねがさばあの弟らしいが。)、見えない空から視線をずらし、ふたりを、なめるように見下げた。


 『あわれな人たちよ。なぜ、従わない?』


 周囲の人々は、みな、一斉に祈りをやめて、ふたりを見た。


 しかしながら、警部補は、まるで、雰囲気には呑まれない。


 『なにに、従うと?』


 『偉大なる、岩盤さまにである。』


 『岩盤さま?』


 『すべてを律し、すべてを司る、岩盤さまにである。』


 『さっぱりわからん。岩盤さまは。どこにいる。』


 『岩盤さまは、この地下におわすのだ。まもなく、この世界は消え去り、岩盤さまと一体となる。救済されるのだ。』


 『うんじゃあ。まいやら。うんじゃあ。まいやら。うんじゃあ。まいやらあ。』


 祈りの声が、また高らかに上がった。


 『どうなってるんでしょう。どこか、陰で、指揮でもしてるんでしょうか?』


 『さあな。しかし、なにかの仕掛けはあるんだろう。仕掛けのないオカルトはあり得ない。作者の見解だ。』


 『そうれは、確かにそうですが、仕掛けがわからないと、意味がないです。もと、奥さんも。』


 『それを言うな。話が俄然、ややこしくなる。』


 『はい。』



 その男が静かに言った。


 『おふたりには、この世界の終末を見る証人になっていただこう。高台に監禁せよ。』


 『まいやらあ。』


 8人の力持ちが、ふたりの警察官に銃をつきつけ、ホールの傍らに設置された監獄風の箱に詰めようとした。


 『きみたち、銃刀法違反だ。現行犯。』


 らんぼう刑事が叫んだ。



        🔫 🗡️

      

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