『ハート・オブ・シティ』 下の2


 赤血警部補と、らんぼう刑事は、こじんまりとしたホールに到着した。


 『市民花柄ホール』である。


 本来は、演劇用に作られたので、残響はあまり強くない。


 だから、音楽だと、種類によっては、響きが固くて、やりにくい場合がある。


 合唱などはその代表だろう。


 ただし、ものすごく上手い場合は、話が違ってくる。


 難しいホールなのだ。


 で。このホールには、ある種の都市伝説があった。


 市長や、議員などが、市役所から脱出する地下道や、核シェルターがある。


 という、ものである。


 実際は、核シェルターは、ない。


 しかし、市役所と地下でつながっていることは事実である。


 それは、別に、オカルト的な意図ではなくて、市役所の行事や、災害時の対策に使うことを前提にしたものだった。


 つまり、資材を運んだりするのに、道路を使わないで済む。


 しかも、緊急資材を蓄えてある。


 暴れ川を抱える自治体の、非常時対策だった。


 しかも、この街は、金持ちである。


 とある大企業の工場があり、税収がたっぷりあった。


 かつては、である。


 いまは、そうではない。


 地下通路は、一般には開放されていないが、別に超秘密事項という、わけでもない。


 それでも、宣伝はしていないから、あまり知られてはいない。

 

 市役所からの距離は近くて、200メートル程度である。


 しかし、このホールは、やはり、今は閉鎖されていた。


 幸い、市民は、押し寄せてはいなかった。


 市民が押し寄せなければ、警官隊も手薄である。


 『まあ、穴だらけの警備だな。恥ずかしいよ、まったく。』


 それでも、多少の警察官はいた。


 地下道があるとは、知らないらしい。


 『ちょっと、いれてくんな。』


 赤血警部補と、らんぼう刑事が、身分証を示すと、警官はガードの紐を持ち上げて、道を開けた。


 普段は、事務所に何人かの管理人などが居るはずだが、退去させたらしい。


 『まあ、こっちには、好都合だ。らんぼう刑事、こっちだ。あそこのB-3階段から地下に降りるんだ。』


 『警部補、なんで、詳しく知ってるんですか?』


 『ふだん、ちびちびと見回りをやって、情報を仕入れているから。』

 

 『それで、嫌われるんですね。』


 『まあな。警官は、嫌われる。嫌われてなんぼ、だからな。』


 『はあ………勉強になります。』


 警部補は、鍵がかかっていないドアを開けて、地下に降りた。


 しかし、暗くて、行き止まりである。『非常口』の表示だけが淡く光っている。 


 警部補が、小さなLED懐中電灯を灯した。


 昔の映画なんかに出てくる懐中電灯に比べると、照らす範囲は狭いが、かなり明るい。


 『あれだ。あそこに、ドアがある。』


 目立たないが、確かに、わりに、壁いっぱい、広い面積のドアらしきがある。


 

         🚪

 


 




 


 


 


 


 

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