『ハート・オブ・シティ』 下の1
市役所の内部は、異常な熱気に満ちていた。
荒川法子市長は、後の世の、荒川放水氏の先祖であるが、そんな未来があるなどとは、誰も考えない。
『なにがどうなってるの?』
市長は困惑していた。
市民は、一種神がかりみたいな状態になっていて、その中心には、何者かがいる。
それは、判っているが、その、中心にいるのが何者かは、判明していない。
議員たちと、市長は、議会ホールに閉じ込められている。
緊急用の多少の飲料などはあるが、市長が最低限しか利用を許していなかった。
『回りには、たくさんの市民がいるのです。われわれが消費してどうするの?』
『しかし、市長、連中は、たぶん、ですがなぞやなし、正常ではない。なんとか、まずは、脱出するのが、先決だべなし。』
議会の重鎮が言う。
いわゆる、地元名家の主である。
市長は、市民の人気はあるが、よそ者だった。
『しかし、だれも、攻撃はしてこない。警察も、そう確認しています。』
『幽閉されてるのは事実だべなし。』
『事態の本質を見定めなくては。』
『まあ、市長の言うことはわかります。我々には、今のところ、危険はない。むしろ、市民が心配ですな。あれは、なんだろう。山田先生は医師だから、なにかお分かりでは?』
議長が、山田議員に、話をふった。
『わたしは、内科医です。メンタルは専門ではないが、しかし、一種の集団的幻覚にあるような。あの、中央にいるらしい人物はだれか、わかりたい。』
『そうですね。』
市長が同意した。
市役所内部は、議会から、ある程度は、モニターで観察はできている。
しかし、明かりが、かなり落ちている。
市民課の、広い市民ホール内部は、窓のブラインドは下ろされ、何ヵ所かの、外につながる扉は、沢山の市民によって、何重にも囲まれている。
職員は、どこかに連れ去られているらしく、事務所は、その市民たちによって占領されていた。
しかし、何かをするわけでもなく、破壊行為はない。
市民課の中心付近に、何者かが立ち上がって、なにかのお祈りをしているようだが、音声は入らない。
その姿は、あたりが、暗くて、さらに、なにか、マントみたいなものを被っていて、良くは見えない。
オカルト番組に出るような、ある種の修道士スタイルみたいだが、その服の色は、はっきりしない。
『ふうん。警察からの、新しい情報は?』
市長が秘書官に訪ねた。
『ないです。新しい市民の群れが、警察隊を取り巻いているようです。それを、また、警察や、機動隊が取り巻き、さらに、市民が取り巻いていて、巻き寿司みたいになってるようです。』
『きみは、不真面目だべや。』
かの重鎮議員が叱りつけた。
『まあまあ、議員、適切な表現です。』
市長が、ズバリと言った。
『あなたのスタイルは、わたしには、解らないべなもし。』
『そうですか? 若い方々には人気ですよ。』
『ふん。くだらんべや。』
『まあまあ。議員、血圧上がりますよ。』
議長が、なだめた。
『赤血警部補が、単独突入すると、知らせがきました。』
市長の秘書官が言った。
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