『ハート・オブ・シティ』 中の10号


 市役所は、市民たちに占拠されていた。


 議員さんや、市長さんも、閉じ込められた。


 なにしろ、どこからやってきたのか、わんにゃんはじめ、あらゆる各種の生き物たちが、ますます、大集合してきていたのである。


 地上からも、地下からも、空からもだ。


 それは、もう、大変であった。


 まさに、人類史上、始めてみるような光景というべきであった。


 警官隊や、ついには、機動隊も来たのだが、うっかり手を出せない。


 ヘリも、戦闘機も来た。 


 だが、なんといっても、相手は、選挙民である。


 議員も市長も、うかつなことは、したくない。


 『まさか、爆撃なんかできないわよね。まあ、現状、市民に危険性はあましないか。職員さんは、わからいなあ。しかし、これは、どうする?』


 あねがさばあは、悩んでいた。


 そこに、警部補がやってきた。


 『おいら、また、裏切り者だ。』


 警部補は、珍しく気弱に言った。


 『なんの、あなたは、いま、自由に動ける位置にいる、貴重品だよ。』


 『ものにするな。』


 警部補に、ちょっと勢いが戻った。


 『しかし、すごい、光景だな。なんだ、これは。なにが狙いだ。これが、岩盤の意志か?』


 『まあ。多分ね。』


 『なら、話し合いしろよ。』


 『だめなんだなあ。植物なら、まだ、話になるが、岩盤は口が堅くてね。』


 『しゃれか?』


 『事実さ。ほんと、無口なんだから。』


 『しかし、感じるんだろ?』


 『まあ、たしかに、そうなんですがね。なんだか、非常に、険悪な意思ですよ。あんたは、不感応体質だし、影響は受けないだろうけど。』


 『へんな、言い方するな。なに? 険悪な? 石か、やはり。』


 『ぶっ。』


 あねがさばあは、ずっこけた。


 『はあ。険悪な、意思よ。すごく、怒ってることは確かだね。』


 『ふうん。なにを、したい?』


 『はて。探ってる。岩盤の周囲の植物たちが、通訳をしてくれそうなんだ。ちょっと待って。』


 あねがさばあは、あらゆる方向に、意識を集中させて、なにが望みかを聞き出そうとしていた。



       🧗‍♀️

 


 

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