『ハート・オブ・シティ』 中の7号


 葉山が裸足であるいた道は、割合簡単に見つかった。


 というのも、自宅から市役所に至る道は、理不尽なやり方を無視すれば、限られている。


 道筋には、たくさんの植え込みや、庭木、街路樹がある。


 そこから、葉山に関する情報を見いだせば良い。


 誰にでもはできないが、あねがさばあなら、困難ではない。


 高い場所に上がっているのは、そのためでもある。


 『ふうん。わりに、最短距離を来てるねぇ。論理的だ。おそらく、それは、本人の意思だな。しかし、その意思は、本人から発しているのか。それとも、何者かが、リードしたか? つまり、自殺は、本人の意思か? あるいは?』


 あねがさばあは、すでに、街に溢れる様々な意思を分析していた。


 もちろん、個々の人類の意思が強い。


 それは、個人的なものではあるが、他者によるリードはある。


 政治家、上司、恋人、医師、教師、債権者、脅迫者、指導者、恩師。


 それは、様々なものが影響しあっていて、それをすべて解明するのは無理だ。


 しかし、例えば、国家の意思は、わりに強い。


 端的に言えば、交通ルールとかだ。


 赤信号になれば、大概は、みんな止まる。


 中に、あえて反発する人がいる。


 しかし、自分が怪我してもやろうとするのは、異常事態である。


 あまり、普段は、あえて意識はしていないが、それも、ひとつの統一された意識である。


 あねがさばあからしたら、背景的意識のひとつであり、まあ、キャンバスの色のひとつだ。


 そんな中から、葉山が歩いたのを見た、植物や、道路、標識、信号機、石たち、壁たち、さまざまなものたちの情報を集める。


 すると、葉山の歩いた道筋が浮かび上がる。


 中には、葉山の、曖昧模糊とした意識を映している物があるはずだ。


 その数は少ない。


 そいつは、非常に、葉山の意思に反応しやすい性質があるものだけだが、それは、必ずある。


 さらに、キャンバスの背景から、じわりと滲み出すようなものがないか、慎重にスキャンする。


 これは、極めて弱い放射線を検出するようなもので、時間と労力を要する。


 そんなこと、ただではやれない。


 相応の費用が必要だ。


 『むままややや。なんだろ、この、宇宙背景放射みたいなものは?』


 あねがさばあは、なにか、今まで気づいていなかった、なんというか、つまり、もしかしたら、危険なのかもしれないが、はっきりはしない、街に、うっすらと全体的にあるらしき、まさに背景放射みたいな影を感じた。


 なかなか、ピントが合わない。


 うっかりすると、すぐに、見えなくなるような。


 極めて当たり前すぎで、もはや有ることが解らなくなる種類のなにかだ。


 しかし、自然に有るものとは、ちょっと違うようなのだ。



        🏝️


 


 


 


 

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