第37話 運命の歯車

「お嬢様、契約者に少し手加減してもいいのでは……?」


「契約者になった覚えはない! 誰のせいで一晩中の騒乱に巻き込まれたと思うの?! 他人にさんざん迷惑をかけて身分を隠して知らないふりで高みの見物、人間の姿でいたいなら少しでも反省しなさい!この石頭!」


怒りが一度爆発したら、簡単に収まらない。


頭の左を抑えながら文句を言う藍に容赦なく叩いた。


「自称良家の娘や淑女ですよね?その物静かな姿はどうしましたか?やはり、全部偽装……」


「黙れ悪党目!」


頭の右を抑えながら文句を言うウィルフリードの話を断ち切った。


「『人の皮を被った悪魔』!そのイメージは誰のせいで崩壊したと思うの?!この悪の張本人!」


——そう、今、頭の中の霧は全部晴れた。


ここにいる「誰か」のせいで、客船が海賊に狙われて、たくさんの人は囚われた。


また「誰か」のせいで、ケンが暴走して、悪魔を蘇らせた。


昨日の事件の元凶は、目の前いる「誰か」と「誰か」ではないのか!


なのに、二人も反省の一つもない、私の前で子供レベルの悪口大会をにやにやとやっている——


「さあ、そろそろ白状してくれない?二人とも」


ちょうど、すぐ近くに、荷物詰め用の木箱がいっぱいあった。


ゆっくりと文字を吐きながら、一番大きな箱を持ち上げた。


「本当の目的は、一体何なの?」


「ですから……お嬢様は本当の契約者、契約を結びたいだけです」


「そんなもの……」


契約がただの手段、目的は代償にある……


と藍に反論しようとする途端にーー


「そんなもの、貴女に似合わないです」


?!


突然に、視野は白色に覆われた。


それは白いベールだと気づいた時、持ち上げた箱はどこかに消えた。


その金色の模様に縁を飾られたベールを、ウィルフリードは両手で受け取って、私の頭に被った。


!!


一瞬、呼吸が止まった——彼の顔は近すぎる……


その深い海色の目は彼の髪色と同じような金色になっている?!


心臓は重く鼓動した。


彼は私の耳元で、呪文を唱えるように優しく囁いた。


「あのペンダントを持つ女子は『聖なる花嫁』として迎えられる。でも、あなたなら、きっと別の道を見つける」


その言葉の意味が全く理解できない。


進まない思考のせいで、頭が空白になる……




「似合うかどうかを判断するのはお嬢様本人と思います。契約者の意志を守るのも青石の使命です」


藍は一歩を出たら、ウィルフリードは軽く笑って私から離れた。


「説明することはたくさんあるけど、またの機会にしましょう。近いうちにまた会えるでしょう」


だんだんまぶしくなっていく陽射しの中で、ウィルフリードの姿は消えていった。


「聖なる花嫁……」


頭に掛けられたベールに触りながら、その言葉を繰り返した。


「どうしたのですか、お嬢様」


藍の声は私の意識を連れ戻した。


「あの方のことですが、わたしも教えてあげたいです。でも残念ながら、わたしにもよくわかりません。彼人間でありながらも、どこかわたしと似たような存在、それとしか言えません」


……普通の人間ではないことだよね。




「それより、お家はどこですか?そろそろ参りましょう」


一人の張本人が去ったけど、まだ一人の元凶がまだ。


「馴れ馴れしくしないで……怪しいと言えば、あなたも彼に負けません」


「おい――!!お前ら――!!」


誰かが大声でこちらに呼びかけた。


「お前ら――調査に協力するんだ!」


相変わらず勢いのいい出番だ。


なにかの探偵少年は私と藍の前に駆けつけて、ひどく悔しそうに拳を握った。


「最新情報だ!あの犯罪者――三日月は、その船にいたんだ!ああぁぁ、ちくちょう!俺様の推理は間違っていねぇ。昨日の災難、全ての全ては、やつの仕業だ!!」


誰の仕業、だと……?


「必ず捕まえてやる――お前らのことも、調査させてもらうぞ!!共犯の可能性はゼロじゃないからな!!」


教育してやる気持ちはなくもないが、あの正義の血が滾る顔を見ると、やはり関わらないほうがいいと思った。


「この少年のことなら心当たりがあります。後で教えてあげましょうか」


藍は耳打ちでそう言ったけど、正直、興味ない。


もう騒音を聞きたくないので、さっそくその場を去った。


「おい、お前ら……俺を無視するな!俺様はな……!」


少年の声はだんだん遠くなる。


「……帝国……探偵……俺の名は…………」


もう聞こえないよ、何も。




少年が追いかけてこなかったけど、やはり、藍はついてきた。


腕の印がある限り、彼を追い払えないかな。


何も知らずに付き纏わされるより、彼と契約についてもっと詳しく知ったほうがいい……


そして、彼は魔女の呪いを解ける可能性も示してくれた。


「そうですね。便利上で、普段はお嬢様の使用人として務めさせていただきます」


相手は私よりも早く未来のことを決めたようだ。


「使用人つきのような身分でありません。逆に怪しいです」


「ご心配なく、いい考えがあります」


「人の話を聞いていますか?第一、お嬢様ではありません。ちゃんと名前があります」


「名前、ですか……」


藍は少し戸惑って、困りそうに苦笑した。


「教えていただけませんか?」


「船で教えたでしょ……」


「申し訳ありません。人間の名前を覚えるのは苦手です」


どんな記憶力しているんだ……


もしかすると、彼にとって人間はカボチャみたいなもので、名前なんてどうでもいいことかも……


覚えていないのは本当かどうか分からないけど、仕方がなく、もう一度名乗った。


「フィルナ、フィルナ・モンド。今度はちゃんと覚えてください」


それを聞いて、藍は満足そうに微笑んだ。


「いい名前です。いずれ、暗闇を照らす月にもなるでしょう」


?!


藍の話は占い師の話と重なった。


「暗闇を歩み続け、光のあるところに辿り着けないかもしれない、そんなあなたはーー闇を照らす力がある」




過去と今、記憶と現実、昨日の夜から何度も重なっていた。


頸元にかけた金色のペンダントから不思議な暖かさを感じる。


運命の歯車はゆっくりと動き出す音が聞こえたような気がした。




【再会は災難の始まり】終わり


【ガラスの人形は輪廻の庭園で踊る】へ続く


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