幕間 カランデュラ

第34話 カランデュラ

「隊長、一体いつまで待てばいいですか?」


待ちくびれた新米船員は上司に質問した。


海賊船は目の前にあって、すでにボロボロにやられたのに、警備船が攻撃を一切止めて、ただグズグズその後ろについている。


理不尽だ。


「次の信号が来るまでだ」


ローランド海上警備隊、シーホース号の隊長は感情の込めていない声で答えながら、望遠鏡で海の向こうの様子を観察する。


「あれはなんの信号ですか?入隊前の研修で教えられたことはないです」


「隊長階級になってから初めて知るものだ」


「海賊船一匹のくせに、三つの最高級警備隊を同時に出動させるなんて、大げさじゃないですか」


「あの信号はそう言った以上、ほかの選択肢がない」


「こうして待っているのもあの信号の指示ですか?」


「そうだ。あの信号は共和国最高指令に等するもの。従わなければならない」


「ハァ?それを出したのは一体何者?どこの王様ですか?」


「知らん。身の安全のために、知らないほうがいいことはたくさんある」


若い船員は隊長の答えにかなり不満足だが、理性が好奇心を凌いだ。


ここで、年長者の忠告を聞いたほうが正しいと判断した。


「霧……?」


新米船員は待ちに戻ろうとしたら、海賊船の方向から白い霧が浮かび上がった。


まもなく、霧が晴れて、意外なことが発生した。


「消えたっ!?」


隊長も思わず驚きの声をあげた。


さっきまで霧に囲まれていた海賊船の姿が消えた。


客船だけがゆらゆらと警備隊に向かってくる。




「向きを西に変えて、もうしばらく様子を見ろ!」


いくら探しても海賊船が見つからなかったので、やむを得ず、隊長は命令を変えた。


「隊長、ホーク隊からの連絡があります。客船の人を救いあげました。ただいま事情聴取をしています」


「やはり待つしかないのか……」


ホース隊の隊長は一溜息をついた。


つまらない待機はまだ続きそうだ。


けど、思ったよりも早く変化が訪れた。


「隊長!救命ボートはこちらに向かっています!一般人が乗っているようです!」


頭の上から、海賊船の方向を監視する船員の声が届いた。




救命ボートに若い女性一人と若い男性二人が乗っている。


灰色髪の少女、東方人顔の青年、そして金髪の青年。


三人とも整えた服を身にまとっていて、容姿端正、海賊に見えない。


船長は命令を下して、彼らを船に迎えた。


客船の人だと分かったら、船員は三人を休憩室に案内した。


灰色髪の少女と東方人顔の青年は黙って船員について行ったが、金髪の青年は隊長に挨拶しに来た。




「ご苦労様」


!!


青年の一言で、経験豊富な警備隊長が分かった――この人こそ、警備隊を呼び出した人だ。


「いいえ、任務随行しただけです……」


隊長はしゃきっと背中を伸ばした。


「真夜中に呼び出して、本当に申し訳ない。緊急な事態なので、あなたたちに頼むしかない」


隊長の気付きの良さを見たら、金髪の青年は満足そうな表情で続けた。


「こっちの指示通り、攻撃をきちんとコントロールしてくれたのね。おかげさまで、一般人の被害はほとんど出なかった。さすがローランド最優秀の海上警備隊だ」


「お褒めをいただき、光栄です」


「オレのことをウィルフリードで呼んでいい」


隊長の厳正な顔に対して、青年は優しい笑顔で名乗った。


「上陸したら、事情聴取をするだろう」


「はい、そういうルールになっていますが……」


「あの二人に聞かなくていい」


ウィルフリードは一度少女と東方人青年が入った船室の方に視線を向けた。


「あのお二人……なぜ……」


口から疑問が漏れた瞬間、隊長はひどく後悔した。


謎の権力者の前に、「服従」以外のことは禁物だ。


きっと、好奇心過剰な新米船員から悪い影響を受けたんだ!


幸い、ウィルフリードは気にせず、さりげなく返事をした。


「あの女性はオレの古い友人。もう一人……彼は変なことをすると思わないが、あなたたちの身の安全のために、触らないほうがいいだろう」


先ほど新米船員に言った言葉は、そのまま隊長に返された。




「隊長、どうしたんですか?あの人と何を話しましたか?」


案内から戻った新米船員は隊長の様子を見て、困惑した。


いつも冷静で生真面目な隊長は帽子を手に握って、冷や汗を掻いたようだ。


「……なんでもない」


そう言いながら、隊長は更に強く帽子を握った。


「あの金髪の紳士、なんかすげぇーオーラがあるみたい。どこの偉い貴族さんですか……」


「偉い貴族よりずっと厄介なものかもしれない……」


隊長は独り言を呟いた。


ローランド最高級海上警備隊の隊長を務める彼は、幾多の王侯貴族と対面したことがある。けど、ウィルフリードのような一言で彼に冷や汗をかかせる人は初めてだ。


国の要人でもないのに、「国家最高指令」に等する命令を使う。もしかしたら、ウィルフリードは国の最高階級を凌ぐ存在かもしれない。


国王、王族、議会の傲慢な権力者たちよりも恐るべき存在といえば――隊長の記憶の中で、一つの曖昧なイメージがあった。


数年前、外国との連合演習の打ち上げ宴で、某国親王は酒の興に乗って口が滑った。


とある国境を超えるあやしい組織は、勝手に国の事務を干渉し、強引的に身元不明の「エリート」たちを国の決策層に入れようとしている……


その組織の名は、確か……


「カランデュラ」、だっけ?

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