第14話 乗り換えは海賊船
「!」
カンナの脅かしが響いたら、場面は一瞬で静寂になった。
「……」
海賊なら、そのくらいはできるだろうと、皆も危険を実感した。
彼たちにとって、石は貴重な「お宝」、人の命にほうが石ころのようなものだ。
「や、やめてください!」
「だから姫様、あなた次第ですよ」
姫様はカンナと対峙している間、乗客のほうもざわついた。
おかしい……
私たちに手を出したら、人々の反抗心を強く刺激するのに違いない。
どうせ無残に死ぬなら、一か八か反抗するのが人間の本能だ。
反抗する人がいれば、面倒なことになるし、やっと決心がついた姫様も気が変わって、彼たちの要求を拒絶する可能性がある。
海賊は確かに残虐非道だけど、やはりウィルフリードの言ったように、一定の合理性に従って行動すると思う。
「宝物」は第一目的だったら、もっといい方法があるはず……
なのに、なぜ……
まさか……
「あなたたちが欲しいのは、青石だけじゃないでしょ」
口を開いたら、カンナをはじめ、全員の目線を引き寄せた。
「あら、あたしたちの欲しいものを知ってるとでも言いたいの?」
挑発な笑顔でカンナは聞き返した。
「……」
!!
答えようとする途端に、針に刺されたような痛みが襲ってきた。
よりによってこんな時に……
痛みが全身を走って、感覚が痺れていく。
力を失った両足が甲板に倒れた。
「おい、どうした!」
私を掴んでいる海賊は驚いて力を緩めた。
「彼女に何をした!?」
「違う! 俺は何も……こいつが勝手にッ」
海賊は弁解しようと両手を放した。
この件に関して、海賊は確かに無実だったが、彼のために説明する力も意欲もない。
それに、海賊を咎める言葉は、ある物好きな男の口から発されたものだ。わざと責任を海賊に押し付けたのは、何か企みがあるかもしれない。
……まだ痛みを感じられる。感覚は完全に失っていない。
今すべきことは、できるだけ意識を集中してそれを言い出すことだ。
「やめてください! 彼女たちと関係がありません!」
姫様は声をあげて、もう一度交渉を試みた。
「もし、もし全員を解放してくれるなら、青石を……」
「渡してはいけない!」
全身の力を絞って声を出した。
両手で腕を抱えて、なんとか痛みを耐えきったけど、感覚はだんだん失っていく。
「青石だけではない、海賊たちは、姫様から別の何かが欲しい……」
視線をあげてカンナの顔を見たら、その緋色の目にキラっと異様な光が走った。
やはり……
「どういう、こと……?」
私の言葉に戸惑って、姫様は答えを求めるように後ろの藍に振り向いた。
藍はただうなずいて、話の続きを聞こうと合図をした。
おかげで、私はぼんやりになった注意力を海賊に集中できる。
「人を脅かすなら、『言う事を聞かないと、こいつらを殺す』なんかより、『言う事を聞かないと、お前を殺してやる』のほうが自然でしょ……あなたたちはどうして、姫様の安全で脅かさなかったの? この船の人たちは、姫様にとって赤の他人よ。それどころか、半分以上はスパンニア帝国の敵国、ローランド共和国の人。脅かしにならない可能性もあるのに」
たとえ噂で姫様の人柄がわかっていても、人の心は簡単ものではない。危険な時に、無関係の他人の命より、自分の命を選ぶ人はほとんど。
「お前を殺す」で脅かすのは一番有効な手段。
「……それに、姫様は青石を持っていると確信できるなら、強奪か姫様の荷物を調べたほうが早い。手間をかけて、人質を取る必要はどこにあるの? まるで、姫様を傷つけるのが怖がっているみたい」
カンナの目線は針のように私を刺さってくる。
でも、そのくらいで痛みを感じない。
さっきから、すでに何千本の針に刺されたような痛みを耐えていた。
「青石だけではないなら、彼たちは一体なにが欲しがっていますか?」
姫様は私に近づけようとしたが、二人の筋肉海賊に止められた。
残っている感覚はわずか、必死に頭を回そうとしても、集中できない。目に映る姫様の姿も、ぼんやりした輪郭しか見えなくなる……
「わからない、でも、姫様は鍵です。奴らは姫様の命を害しない……だから……本当の目的を……けて、ください……そうすれば、私たちも……」
視野は真っ黒になった。
すべての力が失って、頭も体も沈んでいく。
海に沈んだような冷たい静寂が降りかかった。
このまま海に沈んだら、あの時の「選択」に後悔するのか……?
……かわいそうに、十八歳も生きていけないだろう……
……その「病気」がある限り、いくら素質が良くても「基準」に合わないわ……
……病んだ体は歪んだ心を生み出す。彼女を隔離しないと、ほかの子供にもよくない影響が出る……
……ここで祈りましょう。神様はきっとあなたの声を聞こえます……
彼たちは何を崇拝しているのか、子供たちに何になってほしいのかよくわからない。
ただ、どこかで違和感を強く覚えていた。
私の声は何にも届かない。
神にも、悪魔にも。
選ばれた子供たちはみんな幸せそうに新しい「家」に向かった。
でも、そんな「家」も、この「祈祷室」も、私のいるべき場所ではないとわかる。
欲しいものは、自分の手でしか掴められない。
いるべき場所は、自分の足でしかたどり着けない。
だから、あの時の「選択」に、決して……
暗闇の中で、何かを掴もうと手を伸ばした。
突然に、指先に一点の光が現れた。
柔らかい、金色の光……
「お目覚めになりましたか?」
朧な光が目に入って、優しい声が耳元で響いた。
痛みが消えたようだが、全身の感覚はまだ戻っていない。
意識を集中すると、頭が何か柔らかいものに乗っていると気づいた。
目を大きく開けたら、目の前に映ったのは――藍。
「!」
この位置と体勢は……
藍の膝枕?!
驚きで彼から離れろうしたが、鈍くなった神経がうまく反応できなくて、危うく床に転がった。
「大丈夫です。ゆっくり休んでください」
藍は優しい微笑みを見せて、両手で丁寧に私の頭を彼の膝に戻した。
「……ここは?」
体がまだ思うように動けないので、目の見る範囲で周りの環境を確認した。
じめじめ冷たい床に座っている人はほかにも何人がいる。
皆の服が上質で華やかなものだが、顔色がこの部屋の雰囲気と同じ憂鬱なものだ。
薄汚い壁に、小さな丸い窓が嵌められている。そこから夜の漆黒色が見える。
波の音は砂時計の代わりに、時間の流れを数えている。
わずかな貴重な光は、正面にある檻の外から入ってきたもの。
言うまでもなく、私たちは海賊の捕虜になった。
「ここは、海賊船です」
藍の言葉は私の判断を証明した。
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