14話 慣れない服と


落ち着かない…


今オレは用意された豪勢な…まるで貴族の様な衣服に身を包んでいる。

衣装部屋にあった大きな鏡に映る自分がまるで自分じゃない様で…と言うか本当に今鏡に映っているのはオレなのか? と疑ってしまう程の変貌ぶりだ。


髪型と衣服を整えるだけで人間はここまで変わるのか…。


何時もは何の手入れもしていないボサボサな髪も、宮廷専属の使用人達の手に掛かればあっという間に手入れの行き届いた光沢のある美しい髪型へと変わった。



「ルカ様。プレセア様がお見えですよ」



オレの髪のセットから衣服と…それはそれは大変お世話になった使用人さんから告げられたその言葉に、オレは驚く。

だって何故プレセアが此処にわざわざ来る必要があるんだ!?



「あの、追い返して貰っても…」


「人がわざわざ心配して来てあげたって言うのに追い返そうだなんていい度胸じゃない」



突如後ろから聞こえてきた声に、オレの肩がビクリと上がる。



「あら、結構いい仕上がりになってるじゃない」


「プレセア…。何で来たんだよ」


「レティシア様に貴方の面倒を見るように言われてるのよ。私だってレティシア様から指示されていなかったらこんな役目引き受けてなんかいないわ」



そう言うとプレセアは、オレをまるで品定めをする商人の様な表情で観察し始める。

こうまじまじ見られると流石に緊張するし、何より恥ずかしい。



「もういいか…?」



オレがそう尋ねれば、プレセアはぱちくりと瞬きをする。

思いもよらない反応に、オレが困惑していると



「ふふっ」



なぜかプレセアが笑った。

あまりにも似合っていないこの姿を笑われたに違いない。

地味に…いや、かなり傷ついた。

一生正装なんてしない。


そう心に誓っていると



「笑ってしまってごめんなさい。ちょっと年相応の可愛らしい反応が見えて笑っちゃった」


「年相応って…」


「生意気な感じもだけど、今の少し弱々しい感じもまるで…」



そうプレセアは何かを言いかけてそっと口を閉じた。

オレが首を傾げれば、弱々しい笑みを向けられた。



「何でもないわ。忘れて」


「え? あぁ…? わ、わかった…」


「じゃあまた後で会場で会いましょう」



そうプレセアは言い残すと、衣装部屋から出ていってしまった。


て言うか…あいつも参加するのかよ。




▢◇◇◇◇▢◇◇◇◇




確かに、パーティというものは小規模なものだった。

オレの想像するパーティとは、着飾った貴族達が多く集い、談笑したりダンスを踊るというものだったからだ。


だが、今会場に居るのはオレを含めて十人。

その中にはプレセアに王女様。そして…。



「君が保管庫を開けてくれた鍵師殿かな? 」



俺の前に立つ、一際オーラを纏った一人の男性。

真っ赤に燃える炎のような色をした髪を持ったその人が見に包むこの国の王である証のマントと王冠を見て、オレは慌てて頭を下げた。


まさか、孤児院育ちのオレなんかがこうして国王様を謁見できる日が来るとは…。


本当に人生というものは何が起こるか分からない。



「あ、はい!! ル、ルカと申しますっ!」



オレは深々と下げていた頭を上げて名乗る。

だが、緊張のあまり声が上擦った。


そんなオレに、国王陛下は微笑む。



「そう緊張しないで欲しい。君は私の…いや、この国を救ってくれたのだからな」



そう言って国王陛下は、オレの肩にゆっくりと手を置いた。


と言うか…国を救った?

オレが?

どう言う意味だ?

いや、そのままの意味か…。


困惑するオレに対し、国王陛下は話を続ける。



「あの保管庫はもう二度と開かないと思っていた。だからあの保管庫が開いたという知らせを聞いた時、私は驚いたし、何より感謝した。改めて御礼を言おう。ありがとう」



保管庫の中に入っていたアレは余程大事なものだったのか…。

でも、一体何に使うものなのだろう。

そうあの『杖』は。



そんなオレの疑問は、どうやら国王陛下には筒抜けだった様で…



「詳しくは明日話そう」


「え、オレなんかが知って良い話なんですか?」



なにせあの杖の存在はごく一部にしか知られていないモノだと王女様は仰っていた。

信頼し合った仲ならば、極秘情報を伝えるのはまぁ分かる。だが、オレは昨日雇われたばかりの人間だ。そんなまだ信用出来るかも分からない人間に極秘情報を伝えていいのか?



「君の鍵師としての腕前を認めているからこそだよ」


「それでも極秘情報を教えて良いことにはならないですよね?」


「まぁ、明日になれば分かるさ」



なんだか…上手くかわされた気がする。




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