第11話 依頼の品物
「これ。頼まれてた錠前と鍵」
そう言ってオレが差し出せば、プレセアは少し驚いた様子でそれらを受け取った。
「ず、随分と早い完成ね」
「そうか?」
オレは首を傾げる。
オレの中では予定通りなんだが…。
「てっきり数日は掛かるものだと思ってたわ」
「あのね、プレセア! 私、錠前と鍵を作る工程を見させて貰ったんだけど、あっという間に完成してね、それに何より…! あ、これは実際に使ってからのお楽しみ」
そう言って微笑む王女様に、プレセアは首を傾げた。
そんなプレセアを急かすように、王女様がプレセアの背中を押し、早速鍵を掛ける様に促す。
余程プレセアの反応が気になって仕方ないらしい。横目で何度もプレセアの様子を伺っては小さく微笑んでいる。
「じゃあ、付けるわよ」
プレセアはそう言うと、早速金庫に錠前を取り付けた。
だが、その錠前を怪訝そうに見つめているのでここでオレはとある物をプレセアへと差し出す。
それは小さな水晶玉だ。
それもまた怪訝そうに見つめてくるので、オレは言う。
「……取り敢えず受け取って水晶を覗いて見てくれ」
「分かったわ」
プレセアは頷くと、オレから水晶玉を覗き込む。
そうすると、明らかにプレセアの表情が変わった。
「え、これ……私達!?」
驚いた声を上げるプレセアに、王女様が瞳を輝かせてオレへと視線を投げてきた。
オレも無意識で王女様へと視線を向けていて、目がバッチリ合ってしまった。
……だから直ぐに逸らした。
良かった。プレセアには見られていない。
水晶玉が映し出す映像に夢中のプレセアは、今オレと王女様が目を合わせて喜びを分かち合っていた事には気付いてはいない様で、オレは心底安堵した。
もし見られていたらまた、さぞ辛辣な言葉を浴びせられ、変出者扱いされていたに違いないからだ。
「その錠前は、言わば監視の目。錠前が全てを記録して、その水晶玉に映し出すんだ」
プレセアが錠前を依頼してきた時、もしかしたら金庫を開けようとしてきた不届き者が居るのではないかと思い、こういった機能を取り付けておいた。
「強度の方は?」
「叩くなり切るなり好きにしてみてくれ」
オレの言葉にプレセアは「分かったわ」と答えると、何処から音もなく短剣を取り出し、そして錠前目掛けて短剣を振り落とす。
その素早さと力強さにオレは思わず後退りする。
聖女様とは到底思えない短剣の扱い方。
思わず拍手してしまいそうになったその次の瞬間だった。
カキーンとまるで鉄と鉄のぶつかり合うような音が部屋に響いたかと思えば、短剣の先が破壊され、部屋の隅へと弾き飛ばされたのだ。
部屋の隅で転がる短剣の先。
オレは恐る恐るプレセアに言う。
「た、短剣の弁償は勘弁してくれ…」
「請求したりしないわよ。私が壊したんだから。あと………ありがとう。報酬を渡しとくわ」
茶色の袋を渡されて受け取る。
そして、その重さに驚いた。
え? こんなに貰っていいのか…?
そんなオレの気持ちが表情に出ていたのだろう。
プレセアは言った。
「こんなに凄い物を作って貰ったんだから、それぐらい当然よ」
これは、オレの作った錠前を認めて貰えた……と言う事でいいのだろうか。
散々鍛冶屋では、オレの作る鍵を認めてくれる者は居なかった。鍵師という職も馬鹿にされる事ばかりで、誰も認めてはくれなかった。
だから………嬉しかった。
認めて貰えたんだと。
「ありがとう、プレセア」
「別にお礼を言われる様なことした?」
「して貰った。何ならお金よりも嬉しかった」
正直な気持ちだった。
猫を被った性格の悪い女だと思っていたが、こうして鍵を肯定してくれたプレセアに、オレは何だかんだ心を許しつつあった。
ほんと、我ながらチョロいと思う。
仕事は終わったし、部屋へ戻ろう。
プレセアの部屋に長居する理由も特にないので、オレが帰る支度を始めると
「何やってるの? 早く次の仕事に取り掛かるわよ」
「つ、次?」
「えぇ」
まさか追加の仕事…という事でいいのか?
予想外の展開に、オレは瞳を瞬かせた。
が、その仕事内容はこれまた予想外のものだった。
「私の金庫に近づいた泥棒を取り押さえる。だから手伝ってちょうだい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます