第7話 腕試し
宮廷専属鍵師に就任する事になったその翌日、オレはある意味で今…人生最大に危機に面していると思う。
何故なら……
「ちょっと。あんまりジロジロ見ないでくれる?」
「………見てねぇよ」
オレは今何故かプレセアの自室にいるのだ。
親父に引き取られて以来、みっちりと鍵師の仕事を教えこまれたオレは女の子耐性がハッキリ言ってかなり低い。
だから初めて入る女の子の部屋。
ドキドキしない訳もなく…。
しかし、勿論。そんな甘々な雰囲気など微塵も存在はしない。
何ならオレはこのドキドキはある意味違う意味を持っているのでは? と疑い始めていた。
かにせ相手はあの猫かぶり女だ。
二人っきりの空間。今度は何を言われるのか分かったもんじゃない。
「それで、要件はなんですか?」
「宮廷専属鍵師さんに初仕事を頼もうと思って」
そう言ってプレセアがオレを手招きする。
着いてこい……ってことか?
そう思い、オレはプレセアの後を追うと。
「………先に言っとくけど、ここから先にあるものに着いては絶対に誰にも言わないで。いい?」
「いや、流石に個人情報を勝手にばら撒かねぇよ…」
人間としてもだが、鍵師としても依頼人の個人情報を流すなんてことは絶対に行ってはいけない事だ。
オレの言葉にプレセアは安堵したのか、小さく微笑んで壁をそっと撫でた。
その次の瞬間、そこに大きな金庫が現れた。
「依頼内容はこの金庫に更に鍵を取り付けたいの。頼める?」
「取り敢えず、少し金庫を見てもいいか?」
「いいけど……取らないでよ」
「取るわけないだろ」
どうやらオレは余程プレセアから信用されていないらしい。
まぁ、これだけ大きな金庫だ。
きっと中身は財宝といった金目のものが沢山入っていて、オレが貧乏だと知っているからこそ、釘を刺したのだろう。
金庫……と言っても防御魔法が掛けられた箱は、オレから見たらなんて無防備な金庫だろう……と思った。
まるで盗んで下さいと言わんばかりの金庫だ。
それに……金庫をこじ開けようとした跡が多数見受けられる。もしかして、誰かがこの金庫の中身を狙ってるのか?
プレセアに確認しようと思ったが、あまり触れないで欲しい問題なのか。それともまだオレの腕前を信用していないからか、プレセアはそっぽを向いて興味無さげな態度だ。
……ここは、取り敢えず様子見だな。
鍵師は決して依頼主に深入りしてはいけない。
そう親父に教えこまれている。
変に情などを持って仕事に挑むと、鍵師としての道を踏み外すことになる、と。
にしても…
「………凄いな」
「透視だったかしら? もしかして中身、見たの?」
「…勝手に見えるんだよ」
【鍵の皇帝】という称号による『透視』の力で、オレはその金庫の中身が分かってしまうので、中身を見て思わず心の声が漏れてしまった。
それほど中身に驚いてしまったのだ。
因みにプレセアの金庫の中身は膨大な額のお金だった。
しかも、初めて見るような額のお金。
正直喉から手が出る程欲しいが、これはプレセアの頑張りの証だと思うと、自分もこれから頑張らないと……と思えた。
「取り敢えず絶対に誰も開ける事の出来ないものをお願い」
「了解」
オレは鞄からメモ用紙を取り出し、そこにプレセアの名と依頼内容を書き記した。
「にしても……こんなに貯めてどうするんだ? 老後に備えて……とか?」
「アンタに関係ないでしょ」
プレセアはそう言うと、金庫を撫でる。
そうすれば金庫の姿はたちまち消え、ただの壁へと姿を変えた。
防御魔法の一部だろうが、あれじゃあ本当に盗んで下さいと言わんばかりだ。
「出来次第届けに来る」
「それは有難いわ」
用事は済んだし、そろそろ戻るか。
オレは今から王女様に宮廷専属鍵師としての仕事場へ案内される事となっている。
正直、すごく緊張してる。
まさかオレが城で、しかも鍵師として働く日が来るとは…。
きっと天国にいる親父も驚いてるだろうな。
親父は鍵師なんて外れた道だと言っていた。
けど、どうやらそれは違ったみたいだ。
こうして城に雇われたのが、何よりの証。
鍵師は必要とされてるんだよ、親父。
「………そう言えば、修道院。閉鎖の話は無くなったみたいね。良かったじゃない」
「その説はどーも」
思っていたよりも何倍も不機嫌そうな声が出てしまった。が、本当に不機嫌なので致し方ない。
なにせ、天使だと思っていた聖女様が裏であれだけ色々と言ってくれていたんだ。
不機嫌になるのは許して欲しい。
「でも私、謝る気なんて無いわよ。だって本当の事を言ったまでだもの」
「人の考え方はそれぞれだ。だから別にどうこう口出しするつもりは無いが、孤児院の子供達のことを考えて尚その意見ならオレはどうかと思う」
「……他人の事なんて気にしてられないわ。特にお金と命に関してはね」
ほんと…冷たい奴だな。
オレは呆れつつ、早速仕事に取り掛かるためにプレセアの部屋を後にした。
にしても…お金と命に関して、どうやらプレセアは根強い価値観を持っているらしい。
しかもオレとは全く正反対の。
汚くて醜い……。
確かそうもプレセアは言ってた。
「って。依頼主に深入りするなよ、オレ」
親父の言葉を思い出し、オレはプレセアの言葉を頭の隅に放り込んだ。
それに…どうせ聞いた所で答えてはくれないだろうし、何より個人の領域にズカズカと踏み込むつもりも無い。
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