第5話 秘めし力
それからオレは王女様に連れられて魔法研究所へとやって来た。
一体何でこんな所に連れて来られたのかサッパリ分からない。ただ王女様に「貴方の協力次第で修道院の閉鎖を阻止出来るかもしれない」なんて言われたら、着いていかない、なんて選択は無かった。
魔法研究所に入れば、白衣に身を包む研究員達の視線が一気にオレへと集まる。
まぁ、突然こんな見窄らしい男が来たらそりゃあ注目されるよな…。
なにせ左右には第二王女と、Sランク聖女が居るのだ。益々オレの見窄らしさが際立っているだろう。
奥に進んでいくと、とある部屋へと通された。
するとそこにはパイプ煙草を加え、ヨロヨロな白衣に身を包み、かつボサボサの髪型をしただらしなさそうな男が一人居た。
「おっ、来たか。待ってたよー」
「ゼノさん。早速ですがお願い出来ますか?」
「レティシア王女の為ならば勿論」
ゼノと呼ばれた男はプレセア同様に王女様と親しげな様子だった。
オレは手招きされてゼノさんの元へと寄る。
うわ、背高っ…。
見上げなければいけないレベルの背の高さに驚いていると
「お兄さん、名前は?」
「ルカです」
「ルカね。じゃあこれ身につけてくれる? 測定器」
差し出されたのは魔法石の着いたブレスレット型の測定器。
この魔道具はオレだって知ってる。
なにせ、身につけるだけでその人の魔力適正等を見抜いてしまう優れ物だ。
指示された通り早速身に付けてみる。
「うわっ…!」
突然光り出す魔法石にオレは驚く。
いや、だって初めて着けたし。
情けない声が出てしまった事に恥ずかしさを覚えつつ、オレは平然を装う。
……隣でプレセアが小さく笑っていたのは気付かない振りをしとく。
それから暫くして魔法石がとあるモノを映し出した。
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名前 ルカ
性別 男
年齢 17
◇技術
武闘 D
魔法 D
錬金術 D
魔力量 ∞
◇称号 【鍵の皇帝】
効果一覧
▢マスターキー使用可能(魔法無効化)
▢聴覚 視覚 の向上
▢鍵や錠前に対しての魔力付与が通常の十倍の効果を発揮
▢鍵、錠前の質向上
▢監視の目
▢透視
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思わず口を開けて、オレは測定結果に見入る。
測定の結果にオレは驚きを隠せない。
いや、だって魔力が無限大だし…。
何より【鍵の皇帝】って何だよ!?
でも、驚いているのはどうやらオレだけじゃ無いらしい……。
「鍵の皇帝ってなんだ!? と言うか、魔法無効化って最強じゃねぇか!」
「魔力量も無限大!? 一体どうなってるんだよ…」
周りから湧き上がる言葉。
辺りを見渡せば、プレセアと目が合った。
「……孤児院の時でもそうでしたが、貴方は一体何者なんですか?」
オレの測定結果を見て、驚きの声上げるプレセアの言葉にオレは首を傾げる。
孤児院でもそう……ってオレ、何かしたか?
「いや、オレにもさっぱり」
「なるほど。本人ですらも把握してないと」
明らかにオレのこと、冷めた目で見たよな…?
会ったばかりの時の様な優しい聖女様に戻った(猫被った)かと思えば……。
言いたいことは山程あったが、オレは何とか堪える。
「実はこの保管庫には、強大な魔力によって鍵をかけられていました。そしてどんなに凄腕の魔導師様でも開ける事の出来なかった保管庫を、ルカ様は開けてしまったのです」
強大な魔力……?
そう言えばピックを鍵穴に入れた時、魔力の気配を感じた。恐らく魔力が付与された錠前が使われていたんだと思う。つまり、あの時オレはマスターキーとやらを使って解錠してたってことか?
そして中を見ても無いのに中身が分かってしまった。それは透視……だろうか。
「ルカ様。測定にご協力下さり、ありがとうございました。お約束した通り、修道院の閉鎖は中止に致します」
「王女様っ…!? あそこの閉鎖は既に…!」
「私が何とかするから大丈夫」
二人が小さな声で会話をしているようだったが、オレの耳には届く事はなかった。
何故なら閉鎖を回避する事が出来た事への喜びで頭がいっぱいだったからだ。
オレは思わずガッツポーズしそうになるのを堪える。
これで、家族が離れ離れになる事は防げた。
シスターも妹も弟たちも全員、これからも一緒に居られるんだ…!
目の奥が熱くなって、涙が溢れそうになっていると
「ルカ様。僭越ながら再びお願いしたい事があるんです」
真剣な声と眼差しを向けられる。
そんな表情も可愛い……じゃなくて。
戸惑うオレに、プレセアが呆れたような視線をオレへと向けてくる。
多分オレが王女様の事を可愛いなと、見惚れていた事を気づかれたのかもしれない…。
「是非ルカ様にフィーリア王国の宮廷専属鍵師として我が城で働いて欲しいと思っているんです」
「専属って……オレがですか!?」
「はい。測定結果と保管庫を開けて下さったルカ様の鍵師としての才能を見込んでのお願いなのです。実はここ数年フィーリア王国では盗賊などの被害による窃盗や強盗が後を絶ちません。私はそれに保護魔法の限界だと感じているのです。魔法は万能では有りません。誰にでも使用することが出来れば解くことだって可能です。そこでルカ様のお力をお借りしたいのです」
「……保護魔法に限界があるのはオレも思っていました。保護魔法じゃ大切な物も守れないって…。けど、皆口を揃えて言いました。『鍵』なんて意味が無いって。けど…王女様はそんな奴等とは違うみたいですね」
オレの言葉に王女様は近強く頷いた。
「保管庫の鍵はどんなに優れた力を持つ魔導師でさえも解錠する事が出来ませんでした。そして…そんな保管庫はルカ様は開けた。私は鍵の素晴らしさを実感すると共に鍵師であるルカ様の力おがこの王国には必要だと思いました。大切なモノを…もう二度も失わない為に」
少し震えた声で王女様はそう言った。
そして…そんな王女様をプレセアがどこか悲しげに目を細めて視線を送る。
城で働く。
それは言わば大出世だ。
普通なら、一つ返事で承諾する案件だろう。
しかし、オレは平民で孤児。
しかも何の力も無い一般人だと思っていたからこんな煌びやかな場所で働く事なんて考えた事も無かった。
でも、城で働くとなると良い給金が出るはず。
そうなればもっと孤児院の妹と弟達に良い物を食わせてやれる。着せてやれる。
もっと……笑顔が見れるかもしれない。
そして…親父の愛した鍵を…鍵の素晴らしさを。防御魔法なんかに負けない強さを……伝える事が出来る
「ルカ様。引き受けて頂けますか?」
王女様の言葉に、その場にいた全員がオレへと視線を向ける。
断りにくい状況。
まぁ、断るつもりなんて微塵も無いけど。
オレはよろしくお願いします、と深々と王女様に頭を下げた。
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