第9話危険な男

俺が馴れ馴れしくだと。ふざけやがって。

俺は呆れて言葉が出なかった。


聞いてんの先生さんよぉ。その言葉は、威嚇している様に聞こえた。

だが、それは思い込みの様にも思える。


もしかしたら、虚勢をはっているだけかもしれない。


それにしても、こいつは本当に中学性か?

大学生にしか見え無いほど、ガタイが良い。

それがやはり教師に畏怖を与えるのだ。


確かに恐ろしいが、俺はそれに怯む事はない。強いものに対して挑みたくなる性格だからだろうか?


強いものにぺこぺこするのは、大人にするだけで、充分。生徒にまでペコペコしていたら、身がもたない。


強いものに挑む性格になったのは、過去に上に媚を売りまくる人間を見てきて、ああなりたくない。


そう思ったからだろう。なりたくはないが、彼らも、本音を隠して取り組んでいるのだろう。


それは痛いほどに痛感している。軽蔑している訳でなく、単純に俺はなりたくないというだけだ。



石黒はスポーツに、真剣に取り組めば何処でも活躍できるだろう。


それだけに不真面目な性格が惜しいと思った。


石黒が味方になれば心強いだろうが。


それは他の生徒にも自分の要求や説明が通りやすくなるだろうと思ったからだ。


打算的な考えだ。だが多少はそう言う事も考えに入れておかないと苦労する。


だがこいつとは一生仲良くなれる気がしない。

もちろんうわべでは仲良くしなければならないだろう。


うるせえ、この老け野郎。と言ってやりたいところだ。心の中で言うしか無い。


ああ気をつけるよ。悪かったと、言えばすむのかもしれない。と心の中で呟いた。


しかしそれは俺のポリシーに反する。


それに石黒に対する偏見かもしれない。やつだって中学生、冷静に接すればいいんだと考えた。



あのなー石黒、俺から話しかけて来たんじゃ無くて鬼塚が話しかけて来たんだ。

無碍にする訳にも行かないだろ?としっかりと言ってやった。


しかしおっかねー顔してる。俺は石黒の顔をあまり見ない様に言った。だがそれを悟られない様にしている。


それは他の生徒もそうだった。


石黒の独特な雰囲気に恐怖し、廊下にいる石黒を避ける様に生徒が通った。


だが俺は生徒ではない。あくまで教師。


ドスの聞いた声やヤンキー風な喋りにびびっていては、舐められるだけだろう。


それは石黒にとっても、良い事ではない。そう確信している。


そうなのか?

そりゃ悪かった。先生俺勘違いしてた。


なんと意外にも石黒が謝ってきた。


何か狙いでもあるのか?

そう疑ってしまうほど、素直だった。


いや分かってくれれば良いんだ。俺はそう言うしかなかった。


たっくよー鬼塚のやつ。俺が女に話しかけたら怒るくせに。


やばいな。石黒のやつイライラしているな。


これは誰かが八つ当たりされるか、もしくは鬼塚が殴られるか。多分前者だろう。


さすがに女子を殴れば少年院入りだろう。そこまで考えているのか? 

それとも、自分の手では出来ないのか?


奴は女子を使って女子に殴らせる。そんな男だ。

姑息で計算高いが、それでも女子に自分から暴力を振るうことはない。



故に女子を使うのだろう。もっともこれは、具体的証拠はない。

何故ならその女子が言うはずないからだ。


一応落ち着かせるか。

そうイラつくな、俺は教師だぞ?

教師と生徒が話しをするのは避けられない当然の事だ。


男子生徒と仲良く話していたのとは訳が違うだろ?


確かに先生、そりゃそうだ。先生に嫉妬するのはおかしい話しになるな。


そうだろう? 

どうやら納得したようだ。

俺は石黒が誰かに八つ当たりするのを防いだ。

そう自分で誇った。


先生忙しいのに引き留めて悪かった。そう言った後、何故か教室を見やり、にやりと笑った。


生徒の誰かを見た様にも見えたが。自分も気になり石黒の視線先を見た。


じゃあな先生、と石黒は言い俺の前から去った。

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