第5話嫉妬
そう言った葉山は、何か趣味ないのか?
俺は義務的に、だけど関心の薄さが混じった声で聞いた。
正直葉山の趣味など、まるで興味は無いが。
他の生徒に興味が持てなくなったのは、いつぐらいからだろうか?
月宮に会ってからとは思いたくない。彼女のせいにしている様で、気が引ける。
教師としては、満遍なく興味を持つ事が理想だろう。
教師としての熱情や誇りはいつぐらいから、薄れていったのだろう?
かと言って無くなってはいないのだが。
過去に親友の教師が色々あり、そして亡くなった時、からだろうか?
それとも仕事があまりにも多忙だから、寝る時間が少ないからだろうか?
答えは出ない。
そう考えてると葉山が返事に答えた。
そうですねぇ、やっぱり服買いに行くのが趣味ですね。特に瑠璃さんとデートするのが最高です。
それは、瑠璃さんと服のことや学校での出来事を喋るのが楽しくて仕方ないので。
彼女は、その話をすると、全身で喜びを表現した。友達想いなのであろう。
それがひしひしと伝わった。
良い事ではあるが、俺は耳を疑った。何を言ってるんだ、こいつはと思った。デート?
ふぅ深呼吸をし、心を落ち着かせた。
瑠璃に洋服着せて、楽しむんです。彼女への想いは、彼女も自分と一緒なのだろうと思った。
もう美雨ちゃんたら。
月宮が満更でもなさそうに、言った。
2人は漫才夫婦をやる様な、そんな風に見えた。
俺は嫉妬の炎に焼かれた。
ふん。俺は子供の様にご機嫌斜めになった。
いや女の子相手に何を嫉妬する必要がある。
第一月宮は俺の事を愛しているんだ。
そう自分に言い聞かせた。
ああ、嫉妬と言えば、男の嫉妬の恐ろしさを思い出した。
自分は浮気している癖に、相手が浮気をすると恐ろしいまでに愚痴る。
自分を棚に上げて、暴力や脅しをする。
でも先にしたのあなたですよね? と言ったとしても、俺は良いんだ、でもあいつが浮気したのは許せない。
などと語る。その恐ろしさを思い出し、俺は心の嫉妬の炎をそっと吹き消した。
服を買うのが趣味か。それは楽しい趣味だな。どんな服が好きなんだワンピースとか?
と明るく気さくに2人に聞いた。
それは葉山に対して少し冷たすぎると感じ、月宮に対して固執しすぎているとの反省からだ。
自分で言うのもなんだが素晴らしい反省だ。
まだ教師としての自覚はあるのだろうと、自分に酔うかの如く、教師の自信を取り戻した。
そうです。花柄やチェック柄が好きです。
特に
コルセットデザインのワンピースは、レトロで可愛いんですよ。
白いのが特に良いんです。
月宮が楽しそうに言った。そして俺は楽しみながら聞いていた。
すみません彼女はスマホを見て、この後約束があって先生失礼させていただきますと言った。
そして月宮が頭を下げて、立ち去った。
おーい月宮っ。月宮ちゃん、早い早いよ。立ち去るのが。
だが正直そこがいい。
そういうつれない感じが、とても良い。
甘えて来るだけの女ではなく、離れる様な女がね。
言った後に生徒を女呼ばわりするなんて教師の自覚がないのかと自分を責めた。
そう思い直し、猫の様に立ち去る彼女に惹かれると自分の頭の中で言い換えた。
もちろん性格が猫みたいなところがあるだけで、惹かれている訳ではない。猫みたいつまり自由人って意味だ。
他にも月宮の分け隔てなく優しい思いやりのあるところや、聞き上手なところが好きなんだ。
今は俺と葉山が2人で廊下に残った。2人で見合って気まずい。
俺はなんか、喋ろうとしたが、その時遠くで誰かのオナラが聞こえた。
はは。とお互いに笑い、では私も失礼しますと。葉山が言った。
俺は今、放心状態だ。この中学校の廊下がまたなんとも言えない、虚しい気持ちにさせる。
くっそ今度月宮を食事にでも誘いたいが。
我慢だ。俺は教師。
だが、月宮の為ならこの職さえも投げ出す覚悟だ。もちろん自分の為に職を捨てる事とは違う。
そもそも生徒達の為なら職を投げ出す決意で教師をやっているが…
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