第30話 ニューヨーク
「うわーっすげぇーー!」
ニューヨーク。ジョンFケネディ国際空港。
「で、でかい……」
あちこちでジェット機のエンジン音がする。いろいろな国の人々がせわしなく行き交っている。世界有数の巨大ターミナル「JFK」は、今日も数万人の人間を運び出している。面積は成田空港の二倍である。
「これがアメリカンサイズか…」
海外は初なので、こういった日本では見られないような光景には興奮する。
早速秘書さんとアメリカを堪能していたが、黒服から早くするよう促されたのであまり写真は撮れなかった。
「観光に来たんじゃありませんよ?忘れないで下さい」
そう言われても、やっぱり初めての海外は楽しい。
黒服に囲まれているとはいえ、「Is he Kato?」という声があちこちで聞こえてくる。地底人説を提唱するだけあって私は海外でも知られているようだ。
言われるがままに出口へと進み、黒色のセダンに乗って国連本部へと向かった。夜だったが、マンハッタンに向かうにつれ昼のように明るくなっていった。
アウトバーンを通り、とうとうマンハッタンは橋を渡った先だ。空からの眺めも最高だが、地上から眺めるのも良い。壁のように連立する高層ビルが眩しい。本当にここは夜なのか?
橋を渡ると、すぐ横に国連本部があった。写真でしか見たことのない国際連合本部。今夜も世界各国の国旗がたなびいている。
車を降りると金髪のアメリカ人に案内され、高級感満載のモダンな寝室に放り込まれた。特にやることもないので、歯を磨いて着替えてベッドに飛び込んだ。
カーテンを閉めても入ってくる光。鳴り止まないクラクション。これが眠らない町。ニューヨークの人たちはよくこれでぐっすり眠れるものだ……
今日かどうかはさておき、かなり多くの時間を寝て過ごすことになった。しかしまだ寝足りていなかった。
朝日がニューヨークマンハッタンを照らす。太陽光が高層ビルの窓ガラスに反射してまぶしい。
あくびをし、机の上に知らぬ間に置かれていた朝食を食べ、勝手に用意されていたスーツを着てソファーに座った。日課のニュースを見ようとテレビをつけたが、英語なのでなんて言っているかわからない。映像と表情とかろうじてわかる簡単な英単語で内容を推理した。どうやら国連総会に私が出ることについて放送しているようだ。専門家とアナウンサーがこの間の調査隊の結果を見て頷いている。多分私を噓つきだと言っている。皮肉っぽいことも言っているのでやはりそうなんだろう。
私はテレビを消し、ため息をついて頭を抱えた。一部の人を除いて、私は世界から噓つき、狂人、陰謀論の一部だと思われている。信じてくれている人も、それを現実としてはとらえていない。単なる夢として見ているのだ。私の言っていることが真実だとわかっているのは日本政府の上の方の人だけ。なんて孤独なんだ。
……まあでも…秘書さんと山本議員はきっと本当に信じてくれている。友達が信じてくれているというのは心強いものだ。
「ミスターカトーサン」
ドアをノックする音と外国人の声が聞こえる。
「えートォー起きていまーすか?」
「はいっ開けていいですよ」
すると、昨日案内してくれた金髪のアメリカ人が出てきた。
「会議まであと五時間アリマース。ユァガールフレンドとニューヨークをぶらぶらしたらどうでーすか?」
前から思っていたが、かなりラフである。これがアメリカ人なのか…?
「彼女はガールフレンドじゃなくて、秘書ですよ」
「オー、ソーリー。ニューヨークのオススメスポットたくさん教えてあげるから、許してネー」
「おっ、オーケー」
「それじゃあ、行コーカ?」
「えっ?今ですか?」
「イェス。カモーン」
というわけで、同じようにして秘書さんも呼び出し、三人でニューヨーク観光をすることになった。秘書さんはニッコニコである。私はというと、できれば顔隠し用のマスク無しで観光がしたかった。
足早に国連本部を飛び出し、門の前で記念撮影をした。秘書さんがなかなか良いカメラを持ってきていたので、きれいな写真が撮れた。
混乱を回避するため、基本はタクシー移動となった。意外にも秘書さんが予約したのではなく、案内人の方が予約していた。やはりこういったところはしっかりしているようだ。
「まずはブロードウェイからイコー」
案内人がタクシーの中でそう言うと、勝手にタクシーはブロードウェイに向かい始めた。
どこを見ても人、建物、車。渋滞にはまって動けなくなっても、案内人もドライバーも表情一つ変えない。これがニューヨークの日常か。
そんな感じのノリで、ブロードウェイ、ワンワールドトレードセンター、ウォール街、タイムズスクエア、五番街、と次々に回っていった。
そして今、一行はセントラルパークにいる。
とは言っても、秘書さんと案内人は二人で動物園に行ってしまっているので、今は私一人である。
ベンチに座り、足を組んで何気ない日常を眺める。ジョギングをする若い女性、走り回る子供たち、小鳥たちのさえずり。
……なんだ。変わらないじゃないか。
最近忘れかけていたこの風景。
アメリカのニューヨークにも、日本と同じ日常がある。日本とは全然違うと思っていたけれど、やっぱり変わらない、変われない日常がニューヨークにもある。
…ふと、地底のことを思い出した。
そういえば…地底にもこんな日常があったような。子供たちが遊びまわって、大人たちがそれを見守って……ほのぼのとした毎日だった……
結局、どこも変わらないんだな。日常ってのは。まあ、単なる理想なのかもしれないけど。
何故だか、セントラルパークに来て初めて「ニューヨーク」を知ることができたような気がする。
「かt、
秘書さんの声が聞こえる。一応、周囲にばれないように私の名前は「かりな」ということになっている。
「おーいっ!」
立ち上がって、手を振る秘書さんに手を振り返した。
「もうすぐ始まりますよーっ!」
「わかったよ」
私たちは、セントラルパークを後にした。
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