第27話 持つもの

「…そうか。どうやら、大きく動く必要がありそうだな」

パソコンのモニターを見ながら大統領は言った。

ホワイトハウス。大統領執務室。

「専門家の意見が正しければ、本当にSFみたいな展開になりますよ、大統領」

「証明すること。今はそれを急ぐんだ」

「はい…仮に、証明したとして、どうするんですか?」

「さあ。結果次第だ」

「……」

「それで、もう一つの方は?もう決まってるのか?」

「いえ…」

「彼がいいだろう」

そう言うと大統領は一枚の写真を机に置いた。

「彼…ですか……」

「ああ。彼は歴戦だ。それに、あちら側にも行ったことがある。経歴も完璧だ。今すぐ彼を呼び出してくれ」

「了解致しました」

「……そういえば、民間の調査隊が地底世界の湖の有無を調べたらしいな」

「はい。亀裂は見つからず、湖が存在するのはあり得ないとのことです」

「…はぁ……専門家の仮説が正しいとして……彼らは我々の相当先を行っているようだな……」

「果てしなく……先ですね……」






酔いながら議員会館に戻ると、早速寝転がって本を開いた。

「シナリオ通りになった……」

書かれていないことも起きたが、少なくとも書かれていることはすべて正しかった。これは本物の“脚本”だ。

……この世界は、物語だったんだ。脚本通りに動く世界だったんだ。

物語の中だから変なことが起こるんだ……

……普通、地底人なんてありえない。でも、物語の中ではあり得る。

……納得してしまった。


気を取り直して、次の第27話の部分を探して読む。

どうやら、最初にアメリカ大統領…って、大統領?なんで大統領が出てくるんだ?

……まあ、いわゆる“最終回”にもそれとなくつながっている気がするしいい…か。

大統領とその秘書が怪しげな会話をする。そして、最後に意味ありげなことを言う。次は…アフガニスタン?一体どうなってるんだ?

……“某大佐みたいな人がアフガニスタンから呼び出される”

某大佐って誰だ?なんでもっとわかりやすく書かないんだ?

“しばらくの間アメリカ周辺で動きがある”

ってことは……日本では何もないって……






「1! 2! 3! 4! United States Marine Corps!」

遠く高く透き通った空。黄色い荒野を太陽が照り付ける。今日のアスファルトの温度は50度だ。

アフガニスタン南部。キャンプ・ドワイヤー。

「声が小さいぞ!そんな声じゃあ人なんか殺せないぞ!」

すっとした背筋。常備品のサングラス。頭にはいつもヘルメット。腕立て伏せをする新人の間をつかつかと歩いている。

「バッカード中佐っ!」

振り向くと、若い二等兵が敬礼をして立っている。

「ん?なんだフレッド」

「至急、パース国防長官から電話です」

「…わかった」

サングラスの位置を直すと、早速自室に行き受話器を取った。

「バッカードです」

「……ああ。国防長官のパースだ。今日は君に緊急の任務を言い渡すために電話をかけた」

「なんでしょう」

「その前に、君の部隊は今どんな感じだ」

「…日々訓練に励んでおり、つい数日前に初めての実戦を経験しました。存じ上げているとは思いますが、こちら側の死者はゼロでした。よい活躍です」

「……なるほど。さすがは君の部下だ」

「どんな命令であっても、速やかに、確実に実行する準備はできています」

「すばらしい」

「…それで、肝心の任務というのは?」

「……ああ。地底にて特別軍事行動を行う」

「ええ!?」

「君は2001年に地底に行った。そうだろう?」

「はい…」

「……地底に行ってまだ軍人という奴は君だけだ」

「……作戦内容は」

「……帰国してくれ。“トップシークレット”だ。詳しくは本土で話す」

「了解致しました」

「これだけは言っておこう。主任務は、戦闘じゃない。そして、これを隊員含め誰にも告げるな。上官にも告げるんじゃない。これは大統領令だ」

「……はい。了解しました」

バッカード中佐は受話器を置き、ファックスで送られてきた「伝達許可の下りた情報」が載った一枚の紙を受け取った。

紙を持ち、外へ出て深呼吸した。アフガニスタンに来て早五年。数々の戦闘に参加し、指揮を執り、部下を失った。しかし、これほど秘匿性の高い任務は初めてだ。

「チッ」

舌打ちをし、タバコで一服した。吸い殻を捨て、訓練中の部下のもとへと駆け寄った。今は腕立て伏せをしている。

「諸君」

中佐がそういうと、全員が素早く立ち上がって敬礼した。

「…休め」

右手を降ろした。

「良いニュースと悪いニュースがある。さて、どっちから先に聞くか?」

「悪いニュースからおねがいします」

最前列の兵士が言った。

「わかった。残念だが、また任務だ。それも重要な」

何人かが気落ちして静かにため息をついた。また何人かは胸を張って笑って返した。

「良いニュースは、おふくろに会いに行けることだ」

今度は全員が心の中でガッツポーズをした。バッカード中佐の視線は紙に移る。

「任務内容は実施するときに伝える。明日朝までに荷造りしろ。ただし、戦闘関連の物は必要ない。本土で渡される。明日、アメリカ行きの輸送機が来る。絶対に遅れるなよ?」

バッカード中佐の視線が再び兵士たちに向いた。

「イエッサー!」

「気合十分だ。本土にどれだけ居れるかわからんが、おふくろ用にアフガニスタンの砂でも拾っとけ」

「イエッサー!」

「よし、以上!」

そう言うと、新米兵士たちはまた腕立て伏せを始めた。


“某中佐について。彼はこの物語での悪役である”

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