P.147
『金城廃病院』。
〇〇県、依瑠維市にひっそりと佇む廃病院。
創立は一九九二年。元は小さな病院だったが、二〇〇二年に規模を拡大。
当初こそ近辺の住人しか知らない病院であったが、次第に依瑠維市の代表的な中規模総合病院へと発展していったという。
風邪から事故による大怪我まで、小病院の頃から働く先生や看護師が気さくに対応してくれた事もあり、長らく慣れ親しまれた病院であったが、二〇一三年に突如として閉鎖された。
手術患者への医療ミスの発覚、その頃に依瑠維市に建てられた中央総合病院へ人が流れていった為、経営不振に陥った末の閉院。などと噂はされているが、数年経った今でもその真相は明らかになっていない。
当時の職員を探す事は困難だった為、筆者も理由については不明のままだが、もし話を聞けるとしたら閉院となった原因も存じているかもしれない。
「……七年前、か」
自分の携帯画面を開き、日付を確認しながら和輝は呟いた。
七年前というと、和輝が大体十一歳。小学校五年生くらいだ。
「代表的……本当かぁ? 俺は聞いた事ないぞ」
記事の内容に対して、優弥は怪訝な顔で読み進めている。読む速度が和輝と同じくらいだと気付いて、和輝はどうでも良いところで安心感を得た。
「城戸っち、病欠で休んだりしねぇもんなぁ」
俺も行った事ないけど、と付け加えて瞬は笑う。
「あら、御免なさい。風邪に気付かない人向けには作ってないの、この記事」
皮肉だな、と和輝は真顔で返したまひろを見て、内心で苦笑して更に画面を下へスクロールする。
画像の写真では判り難いが、廃病院はコの字型になっている。奥には別棟、病院横にはかつて処方箋の受け渡しがあっただろう小さな小屋。
残念ながら病院内を探索する事は出来ていないが、病院の外観を見るに中に入る事自体は出来そうだ。しかし、廃棄されて数年。崩壊の恐れを考えると、無暗に侵入するのは望ましくない。
数年経った今でも当時の面影は残ったままで、それが逆に不気味さを増長させている。建物は無事なのに中はもぬけの殻。まるで神隠しにでも遭ったように人間だけが忽然と消えた暗い建物は、一体何を見ていたのか。
そして数年経った今でも取り壊されていないのは何故か。
もしかすると、中では未だに看護を続ける誰かが居るのかもしれない……。
「うーん……やっぱちょっと短かったッスかね」
「短いくらいが丁度良いのよ。続きは、調査が進んでからね」
まひろはそう言うと、和輝の眼前に細い指を伸ばして画面の上を滑らせる。
廃病院の記事の下に、もう一つ別記事が纏められている。
『廃病院前墓地』
正式名称は『境会霊園』。
金城病院が閉院した後に建てられた霊園。閉院した後、というのは予測の部分も含むが、少なくとも病院が健在だった頃に目の前に霊園が建てられる事は無いと思われる。
場所が場所故に様々な噂や憶測が飛び交っている。つまりは、病院での死者が埋葬されているだとか、死んだ者達が病院へ復讐する為に建てたとか、根も葉も無いものばかりだ。
病院が健在だった頃は公園だったとされており、墓地の中には当時使用されていたであろうブランコや滑り台などがそのまま残っている。今では誰が使うのだろうか。
「私! 私これで遊んでました!」
「あぁ! 耳元で急に大声出すな! 続き読むぞ!」
元気に手を挙げた夏樹を一蹴して、和輝は再び画面に視線を落とす。
墓地の規模としては中々のもので、歩いて一周するのに一時間は掛かる。だが、墓は欠けたものが多く、供え物も伸び放題の草木によって有るのかどうかも疑わしい。霊園とは名ばかりの場所になってしまっている。
こんな淀んだ場所で何を供養しようというのか。それとも、矢張り初めから供養の目的で建てられたものではなく、霊達によって埋められた領域だとでもいうのか。
更に、この霊園の奥には誰も寄らないような場所に井戸が残っている。
水汲み場に使われていたと推察出来るが、もしそうなら金城病院が閉院した後の二〇一三年以降の設備としてはおかしな部分を感じざるを得ない。
この井戸への行き方は霊園内にも明示されておらず、そこに至る舗装された道も無いので霊園の奥の草藪を掻き分けて行くしか方法は無い。
依瑠維市の心霊スポットとしても名高いこの井戸だが、時折、ここから女性の歌が聞こえる事があるという。
「……歌?」
それ以上記事がスクロールしない事を確認して、和輝は顔を上げた。
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