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「……森崎?」

 やがて、疑問符を伴った和輝、舞、優弥の三人の視線は、一人の少女に集まった。

 この三人が知らない時間を経験している唯一人の存在でありつつ、問題の当事者である夏樹に。

 夏樹は、誰に対して答えるのが正解か惑う様に、その三人を見比べた。

「えっ……あの人、和輝さん達のお友達とかじゃなかったんですか?」

 和輝と優弥の目が合った。

 それは、お互いにそんな人間には心当たりが無いという答えの示し合わせでもあり、眉根を寄せたままの舞もまた同様であったのだろう。

「……どんな人、だったの?」

 低い怪訝な声色で舞が問う。

 夏樹は、自分の長い黒髪を両手で触りながらそれに答えた。

「これくらいの長い髪の毛で……銀色? 灰色? みたいな髪の色した人でしたよ! 多分、和輝さん達と同い年くらいの!」

 何だそれは。芸能人でも中々そんな髪色は見た事が無いぞ。

 パッと思い付いたのは、ありきたりだと思われるだろうがヴィジュアル系のバンドだとか夜に属する何処かの店員か、それこそ芸能人だったりとか、和輝には縁も所縁も無い人物ばかりだ。

「何か言ってなかったか?」

 優弥は更に質問を重ねる。

「いえ、全く何も! 倒れてる和輝さんの身体から私を引っ張り上げて、笑顔でどっかに行っちゃいました!」

 情報を得られたようで、何も解らない謎が一つ増えてしまった。

 いくら頭を悩ませたところで、和輝達に該当する人間は浮かび上がらない。

 すると、唸り続ける三人の中にまひろの声が舞い込んだ。

「その人……私、会った事あるかも……?」

 やや疑問を孕んだ言い方ではあった。が、今出た特徴で思い当たるならば、広い依瑠維市と言えどそう何人も居ない筈だ。

「ほら、覚えてる? 夏樹ちゃんのビデオの事、教えてくれた子」

 そう言われればそんな事も言っていたな、と和輝は曖昧になった記憶を探った。

 それには日にちを大きく遡る必要が有る。会話の末端過ぎて話の前後なんて覚えていないが、その会話をしたとすればビデオテープを観た前後。肝試しの直前、瞬の家での事だ。

「私もあまり覚えてはないけどね。美人だったわよ」

「女の人、ですか」

 和輝の問いに、まひろは声を詰まらせた。

「うーん……パッと見はね。声も服も男性っぽかったけど……低い女性の声なんて結構居るものね。私に近い髪型だったから、私はつい女性だと思っちゃったけど」

 と言って、まひろは常時ポニーテールにしている赤茶の髪の毛を撫でた。

 和輝から見て相当な美人だと感じるまひろの口から『美人』という単語が出て来るという事は、それはもう和輝からすれば傾国並の顔立ちをしていそうだ。

 依瑠維市で十余年生活してきたが、そんな人間は見た事がない。いや、果たして今の生活圏から出たところで出会えるかどうか。

 それは兎も角、とまひろは改めて和輝達に向き直った。

 タイミングを計ったかのように、瞬が携帯をローテーブルの上に滑り込ませる。

「っし、出来た!!」

「お待たせしたわね。その人の事は一旦置いといて……見ましょうよ、金城病院の記事」

 確かに、誰も心当たりが無いのならこれ以上の情報も出そうにない。

 もし夏樹の事を知っているのなら、とも考えたが、だとしたらまた何処かで巡り合う可能性だって有る。

 その人物が何か危害を加えて来たならそれどころではないが、何を仕掛けた訳でもなし。今はこっちだ。

「そこ、押してみ」

 瞬に促されて、和輝は覗き込んだ携帯サイトに表示された『教室』のリンクを指で押した。

 半透明の白背景の中に、等間隔に机の並んだ古びた教室の画面へと変わる。半年も経っていない光景だが、何だか随分昔に見た懐かしさのようなものを感じた。

 リンク先の中には『1-A・金城廃病院』という新しいリンクが貼られている。教室番号を模しているのだろう。まだその一つしかないが、いずれはこのサイトもモンスター校と化す予定なのだろうか。

「ん……あれ? 病院の方なんですか? 墓地じゃなくて?」

 和輝は、更にリンク先に飛ぼうとした指を一度止めた。

 夏樹と関連しているのは墓地の筈だ。もっと言えば墓地に在る井戸。その事は、夏樹と出会った時にまひろ自身が言っていた気がする。

「あぁ、それね……墓地の事に関しては、情報が少なすぎてね。廃病院の方と混ぜて書いてるの」

 つまり、見栄えというやつか。

 そう直感しながら、和輝はリンク先のボタンに指を伸ばす。

 最初に現れたのは、薄暗い時間帯に撮られたであろう、金城病院を坂の下から見上げた画角の写真だった。

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