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「い、意外ね……私と会った時は、そんなの感じなかったけど……」
「いいや、内心メチャクチャ嬉しかった筈さ。なんせ憧れの美人と二人きり……俺なら泣いて喜ぶからな。何か、変だと思ってたんだ。やってる事は回りくどいし、後生大事に写真は隠してるし……」
「……写真?」
舞が首を傾げる。
「あぁ、いやいや! つまりだな、俺は最初に籠飼の写真を見た時、こう思ったんだ。『あ、コイツぜってーモテるタイプなんだろうな』って」
「実際そうだったよ?」
「でも、そこ止まりだったんじゃないか。舞ちゃん、アイツの彼女の話とか聞いた事ある?」
舞は高校の記憶を遡って、暫し目を閉じた。
アナログ時計も置いていない家に無音が続く。探す手を止めてみれば、冷蔵庫の無機質な稼働音だけが家の音を支配していた。
「まぁ……アタシも仲良かった訳じゃないし、深くは知らないけど。学校で聞いた事は無い……かなぁ」
「どんなに仲が良くても精々学校か部活で話すくらい……そんな奴が突然まひろさんみたいな美人から声を掛けられた……浮かれただろうなぁ。怪しいとか思う前に、嬉しいが勝ってたんだ」
「それで、あの時やけに素直に合鍵を渡してくれた、か……先入観で彼を見てたって事ね? でも、御堂君。それと探し物と何か関係有るのかしら」
ズバリと切り込んで来たまひろの顔を見返して、瞬は笑みを浮かべた。
「俺の予想通りやってる事が俺と同じだったとしたら、要は俺に置き換えれば良いんスよ!」
そう言うと、瞬はその場を立ち上がってスライド式の壁を全開にした。
リビングと洋室の隔たりを除いた彼は、二つの部屋が見渡せる中間に立って顎を摘まんで考えを呟いた。
「鈴鳥さんと会う事になったのは、まひろさんが来た後だ……向こうからしたら、立て続けに女の子から声を掛けられたって思うかもな……もし、怪しんでなかった上にそれで浮かれてたんなら、モテ期が来たって勘違いするかも……うん」
舞とまひろの二人は、顔を見合わせた後にぶつぶつと呟きながら部屋を彷徨い出した瞬を見守っている。
置き換える、とは言うが飽くまで瞬の予想に過ぎない。果たして当てにして良いものかという不安は有ったが、これまでに無い集中をしている彼に水を差すような真似も出来なかった。
「まひろさんが家に来た日から今日までそんなに経ってない……もし、まひろさんが家に来たことで自信付いてたとしたら……?」
瞬の足が、リビングの真ん中でピタリと止まった。
「もしかしてアイツ、鈴鳥さんを家に呼ぶ気だったんじゃないか……?」
「……家に!?」
思わず、舞は上擦った声で驚いた。
瞬の予想の域を超えていない事も忘れ、瞬きの回数から動揺の色が見え隠れしている。
「そうだ、そこで貰った箱を大事にしているのを見せつけたかったんだ! それなら、保管してる場所を変えるのも少し解る。引き出しから出してる時に、中の大事な物まで一緒に見られたら困るからな。じゃあ、何処に置く……? 洋室は絶対に無い。こんなゴミ溜めみたいな所に一緒に置いてたら印象悪くなっちまう。そこら辺の棚の上も放置感が出てヤだな。置くなら……」
自分ではまだ見た事の無い箱の形を瞬は想像する。
まひろから聞いていただけの話だと『持ち運び出来る可愛いサイズの箱』。
「パッと部屋を見ただけじゃ見えない、自分が外出にも普段使いしてる物の中……! そこから取り出せば『いつも持ってくれてるんだ』って思わせられるかも!」
「キミ、いつもそんな思考で動いてんの……?」
呆れて舞が呟いたが、まひろは真剣な表情で瞬の推理を聞いた後に彼に問うた。
「御堂君自身に心当たりが有るなら、全く無いとも言えないわね。でも、それって何かしら……絞り込めてはきた気はするけれど」
「ほぼ毎日使ってるって言っても良いよね……あ!」
思い出したように、舞が一声大きく発した。
実際、思い出したのだ。そしてそれは、籠飼にも、舞達にも共通する事であった。
「大学用の鞄の中!」
「鞄……リビングに有ったな! 中は……」
「まだ見てないわ!」
三人が、一斉に動き出した。
リビングの机の端。細かい部分は後回しにしようと、三人が未だ手を付けていない物だった。
「開けるぜ!」
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