P.130

「えっ……?」

「んん……?」

「何……!?」

 和輝と夏樹、優弥までが同時に反応して、優弥は慌てて咳払いで誤魔化した。

 箱が、一つしかないと確信している。

 何でそんな確信が持てる。

(これ……本当に有り得るぞ)

 ここまではやや確証の得られなかった、今回の事件と箱の繋がり。

 籠飼から出る霊。やけに和輝に向かう矛先。箱への思い入れ。

 点と点だけだったものに、薄っすらと線が引かれる。となれば、向こうの三人を待てば状況が一変するかもしれない。

 和輝は、腹を括る覚悟で顔を引き締めた。

「……見つからない!!」

 同時刻、籠飼家。

 元の洋室の風貌が更に荒れ果てた中で、舞は乱雑に置かれた物を掻き分けながら叫んだ。

 足の踏み場も少ない中で、部屋の電気を点けても箱は一向に姿を現さない。

 このままでは、本当に日暮れまで費やしそうだ。

 そろそろ家に入って一時間。そうゆっくりしている猶予も残されていない。

「これだけ探して無いとなると……やっぱりリビング側かしら」

 額に汗を浮かべて、まひろは散らばった小物達を見回した。

「でもリビング側って……それこそ散々見たんじゃないスか」

 そこら辺の物を放り投げながら瞬は疲れた声音を吐き出した。

 誰が書いたかも判らない薄めの本が、他の書物の上に重なっては崩れる。

「それにしてもさぁ……」

 また一つ、何かの説明書のような冊子を退かして、舞が呟く。

「これだけ物置いてるのに、女っ気が有るの一つも無いよねぇ、籠飼君。ま、アタシは逆に安心だけど」

 へいへい、とぼやきながら瞬は当ての無い捜索を再開する。

 小さ目の段ボール箱に詰められたコンビニの袋。マスクの束。ポケットティッシュの山。

 言ってしまっては悪いが、舞の言う通りだ。

 何かを隠す、隠さないじゃなく、籠飼には女の陰が見える部分が全く無い。

 これでは自分の部屋の押し入れを漁っている時と同じ気分だ、夢が無い。そう瞬が思った時、彼の手はピタリと止まった。

「……そっか、わかった」

 不意に顔を上げて静止した瞬を、二人は同時に見つめた。

「箱の場所が?」

 まひろは手に取ったノートを足元に戻して問う。

「や、そうだけど……そうじゃなくて」

 瞬は、言い出す言葉に困ったように二人を交互に見てから言葉を続ける。

「前に、何か俺とかに似てるって言ったじゃん。この部屋とかさ、リビングとか……見た目だけは変に小綺麗だけど、裏はグチャグチャに片づけてるとことかさ」

 それは知らないけれど、という二人の視線が瞬に刺さる。

 ここに来て彼が何を言い出したいのか、まだ掴めていなかったのも含めて舞は呆れた目で彼を見た。

「それで?」

「前に行った時、まひろさん言われたんスよね? 『家に女の人入れるの初めてだ』って。俺、アレ籠飼が女たらしを隠そうとして嘘ついてんだなってずっと思ってたんだけど、違ったんだ。ホントだったんだよ! まひろさんが来るってなって、慌ててこの部屋に詰め込んだんだ! リビングがやけにサッパリしてたのも、目に付くデカイ荷物を片っ端からこっちにぶち込んでたんじゃねぇのかな」

 瞬は更に考える。頭の中で何かが繋がったように、一つの道が現れた。

「まひろさんが家に来た時も、籠飼は手ェ出さないどころか大した話もしなかった……家に呼んだは良いけど、いざ二人きりになると何話して良いか解らなくなった。初めての事だったし、緊張してたから……!」

 瞬は一度大きく息を吸い込むと、残りの自論を一気に捲くし立てた。

「似てるんじゃなくて、やってる事が俺と同じなんだ! アイツ、別に女慣れしてる訳でも何でもねぇ! むしろ逆だ!」

「ぎゃ、逆……?」

 彼の勢いに気圧されつつ、舞は瞬の横顔をマジマジと見てその先を問う。

「奥手なんだよ! 女の人に対して接し方が解らねぇんだ!」

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