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 土曜日の店内。今日はカミーラが開店している日だ。

 満席とは言えず、空の席の方が圧倒的に多いが、中には見知らぬグループの客も談笑している。

 和輝はその間を縫って真っ直ぐに一つの対面座席に向かうと、手を差し出して二人に着席を促した。

「二人とも、苦手な飲み物あります?」

 注文を取りに来た女性店員を前にして、和輝は控えめに訊ねる。

「い、いえ」

「僕も、何でも」

「じゃあ、カフェオレのアイスを三つと……」

 チラリと、向かいに座る少女を見る。

「……オレンジジュースで」

「この子は……?」

 籠飼が、真横に座る少女の存在を和輝に訊ねた。

 少女、夏樹は暇だったのかメニューを開いて延々品定めしている。

 和輝は聞こえないように小さな息を吐くと、夏樹の説明をする為に記憶を掘り起こした。

 鈴鳥にも紹介はしていた筈だ。齟齬は無いようにしないといけない。確か……。

「俺の家で預かってる従妹です。一人にしておけなかったんで……」

 多分、そう言ったと思う。いや、余計な一言を加えてしまったか?

 夏樹はメニューを両手で閉じると、真横を向いて籠飼にお辞儀をした。

「どうも、初めまして! 幽霊の森崎夏樹です!」

「いや! 違います! そういう遊びが好きな年頃なんで……!」

 突然の告白に、和輝は慌てて訂正した後、抑制の意味で机の下で夏樹の足を踏ん付けた。

 それを何と勘違いしたのか、夏樹がその上から更に和輝の足を踏んでくる。

 違う、構って欲しい訳じゃない。

 と和輝は二本目の夏樹の足を横蹴りしてみたが、夏樹の容赦無い反撃が和輝の脛へ強かに当たり、和輝はテーブルの上で人知れずに悶絶した。

 現在の四人は、一つのテーブルを挟んで和輝の横に鈴鳥。夏樹の横には籠飼の位置で座っている。

 連携を考えれば和輝と夏樹が一緒の列に座りたいところだが、籠飼と鈴鳥を横に並べるのは何だか不安だ。何より、和輝が逆の立場なら横に並べられると大変気まずい。

 しかし、横に居たら居たで平穏とはいかなさそうだった。

 その理由は、鈴鳥紗枝とカミーラの前で会った直後からにある。

(何で……)

 脳裏に浮かぶ、先日の瞬の絵。鈴鳥紗枝の背後霊。

(ちょっと視えてるんだよ……!)

 薄っすらとだが。

 鈴鳥の背後に、靄のような黒いモノが昇っている。

 それが理由で、今日の今まで和輝は鈴鳥紗枝を直視出来ていない。

 霊感が宿ったとでも言うのか。そんな、馬鹿な。後天的に発現するものなのか。

 ただ、心当たりとしては一つ有る。それ以外無いと言っても良い。

 夏樹だ。

 この幽霊に身体を浸食されてそうなったとしか考えられない。

 不服そうに夏樹を睨み付けてみたが、やはり夏樹には届かなかったようで屈託の無い笑顔で返されてしまった。

「それで、えぇと……キミ」

 籠飼が、和輝に何か言いたそうに顔を向ける。

「相田です」

「相田君、ね。どうして急に鈴鳥さんと僕を合わせようと?」

 言いたい事は和輝も解る。

 急に二人を呼び出しても、では話して下さい、という訳にもいかない。そんなのは無茶振りだ。

 この会談は、和輝の進行に掛かっている。仲介役、という訳だ。

 胃が更に締め付けられるようだった。

「はい、実は……二人の話を聞く機会が有って。ちょっと色んな人に話を聞いてみたんです。そしたら……何か二人とも気が合うんじゃ、って事で、俺から紹介させて貰おうかな、と」

 ここまでは、昨日まで家で練習した通りだ。多様な返答の対応を考える為に、和輝から遠く離れられないので仕方なく和輝の家に居座らせている夏樹を練習相手にしていたが、全部「なるほど!」と返して来るので全く練習にならなかった。

 鈴鳥の性格は、直接相対するとかなり話し辛そうだ。サークルに来た時からそこを感じていた和輝は、それを見越して話題を提供する必要が有る。

「二人って、確か会った事あるんですよね」

「あぁ……」

 何かを思い出す素振りを見せ、籠飼は鈴鳥の方を向いて答えた。

「試合の時にちょっとだけね。会ったって言っても、こんな風に話したりしなかったけど」

(ん……?)

 答える籠飼をまじまじと見て、和輝は何かの違和感に気付いた。

 籠飼の返答に、ではない。様子がおかしかった訳でもない。

 カフェの席。落ち着いた空間。

 そこでじっと見つめた彼の身体に、妙な空気を感じ取ったのだ。

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