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 何で、こんな案を出してしまったのだろう。

 この数日間、和輝はずっとその考えで頭を悩ませていた。

 籠飼の家の件から数日、曜日にすると皆の時間が空いていた土曜日。

 絶え間無い青と白の天井に晒されて、和輝はある店の前に居た。

「本当に、大丈夫でしょうか……?」

 不安そうな声が、和輝の隣で震えている。

 皆、と言ってしまうと語弊を招いたかもしれないので、訂正はしておかなければならない。加えて正確な日時も確認の為に思い出しておこう。

 籠飼の家に行き、和輝が提案した日から五日ほどが経過した。二〇二〇年、七月の一日、土曜日。

 携帯を見れば時刻は午後を回り、十三時を二分と十秒過ぎている。

 和輝達が居るのは、優弥の勤めているカフェ『カミーラ』、その店前である。

「うん、あの人……鈴鳥さんにメッチャ興味持ってたから。それに、別に何かする訳でもないし」

 和輝は、そう声を掛けても隣で緊張の色を隠せていない、鈴鳥紗枝を見て言った。

 そう、今日この日この時間、カミーラにはある目的で鈴鳥紗枝に来て貰っている。

 目的とは籠飼翔と鈴鳥紗枝を引き合わせる事。

 そして二人がお互いに惹かれ合っている事を認識して貰い、仲を深めてもらう。

 建前上は。

 場所にカミーラを選んだのは、客席側から和輝、店側から優弥のサポートを入れ易くする為だ。

『まぁ、あそこなら大抵の事は起こっても大丈夫だ』

 と、優弥からもお墨付きを貰っている。それが意味するところは和輝には解らない。が、そう言ってくれるなら遠慮無く使わせて頂く事にしよう。

 カミーラには、鈴鳥紗枝……の背後霊の動向を見守るサポート役として、優弥。そして夏樹が配置されている。

 では、残りの三人は何処に居るのかと言うと。

(三人共、もう着いたかな……)

 和輝は再度時刻を確認して、目的の人物、籠飼翔を待った。

「もうそろそろ時間だね」

 カミーラから遠く離れた路地の日陰で、時刻を確認した舞が声を出した。

「ちゃんと来てると良いんだけど」

 まひろが心配そうに呟く。その向かいで、瞬は缶ジュースを飲み干して笑った。

「大丈夫ッスよ! 和輝から連絡来るんでしょ? それに、俺だったら女の子の誘いなんて断らねぇもん」

「だぁかぁらぁ!」

 遺憾な声色で舞が瞬に詰め寄る。

「キミとあの人は違うって!」

「わかってるわかってる! 悪かったって!」

 絵に描いたようなお手上げ状態だ。

 三人の目の前には、マンションが聳え立っていた。

 これから侵入する事になるだろう、籠飼翔のマンションが。

「ごめん、ちょっと遅れた!」

 カミーラで待つ二人の前に、謝罪と共に男が姿を現した。

 写真で見た顔そのままだ。和輝は確信を持って、鈴鳥より前に出た。

「えぇと、鈴鳥さんと……そっちは?」

「……相田です。今日の、付き添いの……」

「そっか。じゃ、中入る?」

「そうですね」

 淡々と、和輝は返答した。

 籠飼をカミーラに呼んだ、否、誘き出したのは、自宅のマンションから引き離す為だ。

 和輝、優弥、夏樹がカミーラに籠飼を誘い出し。

「席は、取ってありますから」

 瞬、舞、まひろがその間に籠飼の家で箱を探し出す。

「相田君から連絡……籠飼君が来たって」

 誘導と探索係。大まかに言えば、二手に分かれる作戦だ。

 ありきたりと言えばありきたり。だが単純ながらに効果は有る筈。

 正直、籠飼と鈴鳥を直接会わせるのは鈴鳥の霊の事を考えれば、控えておいた方が無難だ。

 探索の方に一番霊感の強い優弥を入れなかったのは、その霊が万が一暴走でもした時に一番対応出来そうな人間としての保険も兼ねている。

 代わりに探索の担当をするのが舞。箱の位置を知っているまひろを、舞と瞬でサポートする。

 和輝と瞬の役割はどちらでも可能だったが、夏樹は和輝から遠くに行く事は出来ない。

 二手に分かれる案を出した以上、人数的な調整として、カミーラ側を和輝が担当する事は必然であった。

 つまりは、カミーラ側の主体は和輝だ。

 それを踏まえて、和輝は改めて頭を悩ませる。

 あぁ、こんな役目は普通なら優弥辺りに任せてしまうのに。

 何でこんな事を言い出してしまったんだろうと、今更胃に負担を覚えた。

「いらっしゃいませ!」

 女性の店員が和輝達に声を掛けて来る。

 十三時五分。

 店内の冷たい空調が、和輝の緊張の汗を拭った。

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