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「私が、何の為にこれを貰って来たと思う?」

 そう言って、まひろは鍵を一つ指で摘まみ上げ、和輝の目の前で揺らして見せた。

 先程、まひろは籠飼の家の鍵を頂いた、と言っていた。

「それ……まさか……」

 和輝が断言する前に、まひろは微笑して頷く。

「えぇ、彼の家の合鍵。これでいつでも探しに行けるわよ」

 皆、ポカンと鍵を見つめて固まっている。

 やがて、優弥が初めて素直な賞賛の言葉を口から出した。

「……やるな」

 転んでもただでは起きない、とはこの事か。

「よく……貰えましたね」

「料理作ってあげるって言ったらすんなりくれたわ。まぁ……保険よ、保険。こういう時の為のね」

「料理ぃ!?」

 舞の驚く声が裏返った。

 そんなに驚く事だろうか。確かに、好きな人に手料理を振る舞われるのは些か良い心持ちはしないだろうが。

 だが、舞の驚きはそれとは別の所に在るようで。

「まひろ、料理なんかしないじゃん!」

「えぇ、まぁ……そうね。御堂君、一人暮らしなら料理とかしない?」

 それは、瞬に作って貰おうという気……なのか。

「や……俺はしねぇッス。っていうか和輝とかも一人暮らしッスよ」

 まひろの視線が和輝に向けられる。

 否定しようと思った直後、座席の隣から代わりの声が飛んで行った。

「和輝さんの冷蔵庫、冷食ばっかでした!」

「何で知ってんだ!」

 つい和輝は声を荒げてしまったが、内容は他の四人も同じ事を思ったようだ。

「いや……ホントに何で知ってんの?」

 舞が怪訝な顔で訊いてくるので、和輝は慌てて話を逸らそうと優弥を見る。

 夏樹との問題が解消されないままここまで来てしまったが、今は後回しにした方が良い。これ以上、問題を増やすべきではない。

「料理なら優弥が作れるだろ!」

「まぁ……簡単なヤツならイケるが……」

 優弥は額を掻いて呆れていた。

「そもそも、馬鹿正直に作る必要が有るのか……?」

「嘘吐いちゃった手前、悪いとは思ってるし……」

 まひろは困り顔で答えた。

「鍵と引き換えに、手料理か」

 それくらいなら別に良いけどな、と優弥は諦めた様子で体重を座席に預けた。

 籠飼からすれば鍵は貰われるわ、まひろの手料理だと思った物は男料理だわで散々な話ではある。

「……それで、いつ行くんだ? 籠飼の居ない時を狙う必要が有るだろ?」

 優弥からもたらされた新たな問題の提示。

 籠飼が家を空けている時でなければ充分な探索は再開出来ないだろう。

 だが、こちらは彼の一日のスケジュールなど把握していない。一日中、貼りついてでもいなければ。

 そんなの何日掛かるか判らない。和輝達は兎も角、鈴鳥紗枝に時間の猶予はあまり無いと優弥も言っていた。

 せめて、こちらで籠飼の動く時間を決められれば良いのだが。

「……あ」

 鈴鳥と籠飼、両名の顔が頭に浮かんだ時、和輝の中で何かが繋がって、口元の手を離すと顔を上げた。

「ん?」

 和輝の漏らした声に、瞬が顔を向けた。

 誰も発言しない。誰も思い付いていない。

 和輝だけ、その方法を見つけた。方法と呼ぶには、自分でも心許なかったが。

 きっと、肝試しの前ならこんな事は考えつかなかったし、考えついても自分から言う事はしなかっただろう。

 この六人だから出来そうな提案。

 目立つ事は控えていた和輝には、到底似合わないような提案。

 いや、これは凡人だからこその提案なのだ。何の奇抜さも必要無く、要るのは籠飼を家から離せば良いという単純な思考のみ。

 ただ、何の取り柄も魅力も持たない凡人に、果てして全うする事が出来るのか。

「……あのさ、俺、ちょっと思い付いたんだけど……」

 震える手を挙げながら、和輝は恐る恐る声を出した。

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