P.107

「気になる……って、それはただのプレゼントなんじゃないのか?」

 その箱にどれだけの意味が込められているのか知らない和輝は、首を横に振って優弥に問うた。

「それはそうなんだがな……」

 優弥の方も曖昧な返事で何処にも目線を合わせずに応える。

「小鳥遊君や鈴鳥さんの霊にも関係してるって言うなら、オカルト的にも箱は意味を持ってくるわよ」

 凛とした声で、まひろはそう言い切った。

「そうなんスか?」

「えぇ、中に何かを入れたりとか魂を封印したりとか、呪術の本でも度々見掛けるわね。ま……中に入ってるのは大抵変な物ばっかりだけど」

「例えば、どんな……?」

 興味本位で、和輝はまひろに対して訊ねる。

「髪の毛とか、爪とか」

「……うえっ」

 想像をしてしまったのか、瞬の口元が歪んだ。

「赤子のミイラをそのまま入れてる、なんて箱も在るけれど。鈴鳥さんのは、掌サイズの小さな箱みたいだからそれは無いわね……城戸君、ちょっと寒くなってきちゃった」

「……上げてくる」

 優弥が席を立ったのと同時に、舞が口を開いた。

「夏樹ちゃん的にその箱どう? 怪しい? この中に何か入ってたりしそう?」

「いやぁ、流石にこれに入れと言われると……物理的に無理です」

 じゃあお前が俺の中に入ってたのは何なんだ、と言いたい気持ちを堪えていると、奥から優弥が戻って来た。

 彼は、戻って来るなり五人に向かって提案を持ち掛けた。

「籠飼翔と接触しよう」

「……やっぱ、箱か?」

 和輝が訊くと、優弥は「それもあるが」と答えた。

「鈴鳥さんとそいつをどうするにしろ、一度会っておいた方が良いだろ」

「……つってもどうやって? 鈴鳥さんだって連絡先知らないんだぞ。小鳥遊君に訊ける訳無いし……」

「顔なら写真で判るんだけどねぇ……」

「アタシも、Mitta-のアカくらいしか知らないしなぁ」

「……それだ」

 優弥が舞の言葉に興味を示した。

 Mitta-。ミッターは連絡にも使われるSNSアプリだ。

 基本が文章投稿なのだが、手軽に使い易い事から学生から有名人まで御用達のアプリとなっている。

 蛇足だが、姉妹アプリにKiita-(キイター)も存在している。こちらは通話用のアプリだが、ミッターにも備わっている機能なので残念ながらインストール数は芳しくない。

 優弥は舞にそのアプリを起ち上げるように言うと、空になった皆のグラスをテーブルの端に寄せた。

「そのアプリ、メール送れる機能とかないのか?」

「……あっ、えっ、連絡するの? アタシが!?」

「当たり前だろ。お前以外にそんな情報持ってる奴が他に居んのか?」

 舞が両手で持った携帯を呆然と眺めている最中、和輝は優弥の言わんとしている事が何となく理解出来た。

 鈴鳥と小鳥遊。両者に関係しているのが籠飼であり、そして両者に影響を及ぼしているのもまた、籠飼翔なのだ。

 この男から何かを聞き出せれば、問題が一気に解決する見込みが有る。

 それに、優弥の言う通り一度接触は試みてみるべき、なのだろう。何故なら、忘れ掛けていた今回の依頼は『籠飼翔と近付ける呪いを教えて欲しい』だ。そちらに関しては未だ何の進捗も無い和輝達にしてみれば、真っ当に彼の素性を探る方がまだ成果が得られそうである。

「いや……でも……」

 舞は両手の親指で携帯の画面を弄ぶように叩いている。子供が気泡の緩衝材で遊ぶようなその様は、言葉からして躊躇っていた。

「メッセージ送るなら……もっとちゃんとしたタイミングで送りたいっていうかさぁ……?」

「乙女か、お前は」

 淡い少女の心が優弥に両断される。

 キッと舞の目が優弥を睨み上げたが、彼は呆れ顔で息を一つ吐いた。

「個人的に繋がりたいなら依頼の後にすれば良いだろ……それに、実際に会うのは他の奴に頼みたい」

「えぇッ!? アタシじゃなくてぇ!?」

「メッセージを送る前からニヤニヤしてる奴を送り出せるか!」

 確かに、舞のこの様子では済し崩しに終わりそうではある。何かが発見出来そうでも、言いくるめられたらそっと彼女の胸の内に仕舞われそうだ。

「じゃあ、誰が行くんだよ」

 自分では無いだろうという事を確信したのか、瞬は他人事のように皆に向かって訊いた。

「そうだな……」

 優弥は切れ長の目を横に向けて悩む。が、和輝は話が進んでいく前に、目の前でまだ一つ前の状況に居る彼女を見て、皆へ通達した。

「……まず、本条さんがちゃんとメッセージ送れるかどうかから……じゃないか?」

 画面に見えるは彼女のアカウント。

 文字を打っては消し、打っては消し。

 相手先の個人メッセージではなく、全ユーザーに向けての投稿画面で送る文章を練習している舞を見て、一同は大きく頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る