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「それにだ」
優弥が、舞に伸びた夏樹の手を優しく退かしてやりながら言葉を続ける。
「生霊ってのが問題だ。死んでる相手ならそれ相応の場所に行きゃ、何とかして貰える可能性は有る」
夏樹の手が今度は優弥の腕を触り出した。触っても問題無いかどうかがそんなに気になるのか。
眼前で戯れられている舞は鬱陶しそうだったが、優弥はそれに構わずひたすら夏樹の手と接戦を繰り広げている。
「だが、生霊ってのは祓ったところでその本人が変わらないなら、復活しちまう……夏樹ちゃん、ジュース零れるぞ……生きてる人間をどうにかするなら、同じ生きてる人間にしか出来ない」
「それなら、鈴鳥さんと小鳥遊君、どっちを優先すべき? 二人共、自覚は無さそうだけど」
まひろは、夏樹の脇をヒョイと持ち上げて座席の元の位置に戻しながら言った。
「いや、もう一人居るだろ?」
優弥が、和輝に顔の向きを変えた。
「……籠飼、翔?」
そうか、と和輝は優弥を見返した。
元はその男が小鳥遊に切っ掛けを与えたと言っても過言では無い。
大学を休んで尚、小鳥遊に連絡を送っている事からしても、影響が及んでいないとは考え難い。
「籠飼の件を解決すれば、小鳥遊が生霊を出す必要は無くなる。鈴鳥さんの霊は一時しのぎにしかならないだろうが……」
「緩和はされるかも……でも、具体的にはどうすんだ? そもそも、鈴鳥さんの依頼通りに動くなら、二人を引き合わせなきゃいけないんだろ」
いっそ、依頼は無視してしまった方が早いんじゃないかと思いながら和輝は言った。
無視した上で、鈴鳥が籠飼に、又は逆でも良いから脈無しと思わせる。要は、籠飼に諦めさせれば小鳥遊に何かを言う必要も無くなると思った。
だが、瞬はその逆の考えの様だ。
「それはそのまま依頼通りで良いんじゃねぇの? 籠飼が小鳥遊に連絡してんのだって、鈴鳥さんが近くに居ないからなんだろ? お互い連絡でも取り合えるようにしたらそんなん必要無くなるじゃん」
「でも、それって結局別の大学に居る間は変わんないような……」
舞もどちらにするべきか決めかねている様だ。
「籠飼君って……」
皆で思案している中、夏樹はスケッチブックにいつの間にか描かれた、瞬お手製の籠飼の似顔絵を見ながら言葉を落とした。
「……何で、そこまで鈴鳥さんの事を知りたがってるんでしょうね?」
「何でって、それは……」
何でだ?
当たり前のように話が繋がっていくので、大事な部分を見落としていたような気がする。
そも、籠飼は何時、何処で鈴鳥の事を知ったのだろう。
昼間の鈴鳥の様子からでは、籠飼との接点を感じる事は出来なかった。にも関わらず、やや一方的に籠飼は彼女の情報を求めている。
二人の間で、既に何かが起こっている。
そう考えると、思考を止まらせるよりかは少し納得出来る気がした。例えば。
「ラブレターでも送ってたのかぁ?」
瞬の言葉を言い換えるなら、贈り物。
別にラブレターじゃなくてもいい。会うにしては短い時間で済み、且つ印象に残せる何か。
そういったやり取りが成されたのなら、籠飼の記憶に彼女の顔が浮かんでも不思議ではない。
「……心当たり、有るわ」
そう反応したのは、まひろだった。
「高校のバスケの大会でね、彼女、彼を見に行ったって言ってたの。そこで、偶然間近で挨拶出来た時に、自分の大切な物をプレゼントしたらしいわ」
「そりゃ、何だ?」
ぶっきらぼうに優弥が訊ねる。
「……箱」
「……箱?」
オウム返しに舞が眉根を寄せた。
まひろは、自身の掌を見せるようにして上に向けると、改めてそれに答える。
「そう、箱。これ位のね。実家で見つけて……可愛いサイズだからって鈴鳥さん、何時も大切に持ち歩いてたみたい」
「箱、箱ねぇ……どう? 和輝」
また難しい顔をして瞬が訊ねてくる。これは、貰ってどうか、という質問なのだろう。
「いや、微妙……だけど……でもどうしてそんな大切にしてる物を?」
「『何かを贈るなら、自分にとって大切な物の方が良い気がした。他に何も無かったから』……そう言ってたわ」
それにしても、プレゼントに謎の箱。
女子から贈り物をされる分には和輝も嬉しい事には違い無いだろうが、その時の籠飼の反応も気になるところだ。
「……その箱、ちょっと気になるな」
優弥が腕組みをした片手で、自分の顎を触って言った。
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