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「死霊と生霊のガチンコ、って事?」
舞が行き着いた結論は、ここまでの話を統合したものだった。
鈴鳥紗枝の霊は、小鳥遊が出現する限りずっと彼に威嚇を続けるだろう。
一方の小鳥遊雄介の霊も、鈴鳥があの道を通る限り出没すると思われる。
仮に鈴鳥が道を変えたとして、そこに小鳥遊の霊が絶対出て来ないとは言えない。
これはもう、根気の勝負だ。
「話が、そう簡単だったら放っておいたんだけどな」
優弥が首筋を掻いた。
「大学での別れ際にも言ったが、このままじゃあの子がマズイ」
「それってどういう事だ?」
和輝は、優弥に疑問を投げる事しか出来なかった。
ここまでの話を纏めると、マズイのは小鳥遊の方に思える。
彼は今のところギリギリで持ち堪えている。きっと明日も悪夢を視るのだろう。悪夢が続く限り、いつ潰れてもおかしくない筈だ。
「別れ際の彼女の足取り……見ただろ?」
優弥は誰を見る訳でもなく、遠くの壁紙でも見ながら皆に訊いた。
「フラフラしてたわね。だから、私もついて行ったんだけど……」
「ありゃ、後ろの霊に生気を持っていかれちまってる……あぁー……要するに体力が弱まってる」
それを聞いて、和輝は夏樹が身体に侵入して来た事を思い出した。
冷たい鉛を押し付けられたような、あの感触。吐き気。
日常に置き換えるなら、ずっと風邪で熱が出ている状態に近いかもしれない。
それがずっと続いているなら、無理ない話だと思った。
「霊ってのは、憑りついた相手の体力をジワジワ奪っちまう」
優弥は、夏樹の方をチラリと見てすぐにテーブルに向きを変えた。
オブラートに包むべきか一瞬黙った後、済まなさそうにもう一度夏樹を見ながら出来るだけのフォローを加える。
「……本人に、その自覚が無くてもな」
そうでしたか?と夏樹の目線が和輝に動いた。
和輝にその自覚は無い。鈴鳥と和輝では憑りつかれた期間が違う。ジワジワと言うなら、一日未満の和輝では比較は出来そうにない。
「いやにリアルに言うわね。まるでそういう人を見た事があるみたい」
まひろのグラスの中で、溶けた氷が落ちる音がした。
「……伊達にこの歳まで視てきた訳じゃないからな」
優弥は苦々しい顔をして、更に続けた。
「加えてこの時期の気温だ。あのままだと、その内本当にその辺の道端で卒倒してるぞ」
しかも本当の原因は判明しないだろう。
病院に担ぎ込まれたとして、熱中症だとかで片付けられそうだ。
依頼どころの話ではない。このままでは鈴鳥の命に関わって来るぞ、と優弥は語る。
「……それは、確かにマズイわね」
「関係無い人間なら放っておいても良かったんだがな……関わり合いになった人間が死ぬのは、流石に寝覚めが悪い」
「夏樹ちゃんの時みたいに、抜けたりしないのか? スポーンって感じで」
瞬が両手で引き抜く動作をしてみせると、同時に二人の声が店内に轟いた。
「馬鹿言え!!」
「出来る訳ないでしょ!!」
言った二人が「やっぱりお前もか」「城戸さんもそうなの?」と言いたげに顔を見合わせ、先に優弥の方が口を開く。
「俺も本条も『視える』し『触れる』が『祓う』事は出来ん。そういうのは別の奴の仕事だ」
「それにさぁ……こっちに敵意を向けてる霊に、敵意で触ったりしたらどうなると思う? 無事じゃ済まないよぉ?」
呆れ顔の舞の頬に、突然ペタリと冷たい小さな手が貼りついた。
舞は一瞬身体を跳ね上がらせたが、それがグラスの水滴で濡れた夏樹の手だと判るとすぐに呆れ顔に戻る。
「これは……別ね」
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