P.101
優弥は和輝の回答を得ると、正否を通知する代わりに話を続ける。
「あの霊、男に対して異常に警戒してるように思う」
話を聞きながら頭を悩ませていたまひろが、ここで優弥の言葉に歯止めを掛けた。
「……確証は有るの?」
それに対して、優弥はハッキリとした口調で「無い」と言って首を横に振る。
「推測だ。だが、ただの推測って訳でも無い」
優弥は、右手の親指だけを自分の口元に突き当てて更に推測を展開させる。
「最初に和輝と瞬にまで反応した時、変だとは思った。だから、もう一度確かめてみようと二人に動いて貰った」
「あぁ、それが……」
大学の東棟内で優弥に言われた『作戦』に繋がる、という事なのだろうと和輝は得心がいった。
「……何だったっけ?」
と記憶が朧げな瞬に、和輝は思い起こさせる。
「『さり気なく近付け』ってヤツだろ。お前が『何の意味が有るんだ』って言ってただろ」
「あぁー……アレか。あん時はマジで意味解んなかったんだよな」
「で、結果は?」
待ちきれずに、舞がソワソワと座席の上で身じろいでいる。
優弥は飽くまでも自分のペースを崩さずにそれに答えた。
「当たっている、と俺は確信してる。校庭で鈴鳥さんに近付いたのは神谷、和輝、瞬。最初の神谷の時はそれ程でも無かったが、和輝と瞬が寄った時だけ霊が荒くなった。特に瞬の方はヤバかったな」
「……何で!?」
「それは知らん」
「でもまぁ、男性に対してだけ反応して威嚇してるって言うなら、城戸君の考え方も解る気がするわ」
まひろは思案しつつ言葉を続けた。
「だって、それって悪意を振り撒く怨霊というよりも、鈴鳥さんの傍に居て危険から遠ざけるみたいな……行動は守護霊の方が近いもの」
夏樹も、怖さは感じない、という風な事を言っていた。
鈴鳥の霊にとって、男性は害悪。
しかし、むやみやたらに危害を加える事はしない。現段階でも、鈴鳥本人からですら被害は訴えられていない。
被害が出ていなければ解決の必要も無さそうに思えるが、和輝が思うような、そんなに単純な話では無いというのは続けられた会話で示された。
「謎なのは、切っ掛けね」
声に重しを乗せて、まひろは一つ言葉を落とす。
「……切っ掛け?」
まひろの疑問に舞が更に疑問で返すと、同意するように優弥が頷いた。
「彼女に霊が憑りついた切っ掛け、だ。そこら辺の浮遊霊が鈴鳥さんに憑りついて、彼女から男を遠ざけてる。有り得なくはないんだろうが……可能性としては薄い」
「夏樹ちゃんはそこんとこ、どうなの?」
優弥の話を聞いて、瞬は訊ねてみた。
夏樹は頭を捻りながら自分に置き換えている様子で、それでも傍から見ても抵抗を感じているように見えた。
「知らない人に憑いて行くのはちょっと……無差別に憑りつく幽霊も居るには居ると思いますけど、そういうのって大体幽霊本人が憑りついた相手に恨みつらみをぶつける為にやると思うんですよね。守るって言うなら、やっぱ知ってる人の方が良いかなって」
本物直々に意見を出されて、和輝は不鮮明ながらも霊のとある可能性について思い当たった。
「つまり……鈴鳥さんの霊は、彼女に近しい存在だった人、って事か……?」
「あぁ、納得いったわ」
まひろは自分の携帯電話を机の上に出し、徐に画面を開き始めた。
「それで城戸君、大学の後にあんな連絡を寄越したのね」
「……アタシの携帯から送ったヤツ!」
舞も急いで携帯画面を開く。
それを待たずして、まひろは送られて来た文面をかいつまんで読み上げた。
「『鈴鳥紗枝の家族構成を無理の無い範囲で訊いてみてくれ』って……アナタ、言葉が足りないってよく言われない?」
心当たりが有るのか、優弥は首筋を掻きながらまひろに対して訊き返した。
「……それで、どうだった?」
「聞けたわよ。無理の無い範囲、でね」
涼やかに返したまひろに負い目を感じたのか、優弥は黙って彼女が続けるのを待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます