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そこに描かれたのは、ざっくりと人型を模った鈴鳥。
その背後に、髑髏の顔をした複数の人魂が立ち昇っている。
一つ一つは小さな人魂なのだが、重なり合ったそれらは一つの大きな人魂の塊へと増長しているように見えた。
「おぉ、そんな感じだ」
感心した様子で優弥が絵を覗き込んだ。
「けど、ちょっと少ないですよね」
「少ないって、何が?」
夏樹が新しい鉛筆を取り出して、瞬が筆を止めた隙に彼の描いた人魂の周りに同じモノを付け足していく。
「こんなに!? 俺、これでも加減して人魂増やしたんだけど!?」
その数、少なく見積もっても十は下らない。
夏樹がガンガン付け加えていくそれは、絵ではあるが既に鈴鳥の顔より一回りも二回りも大きく膨らんでいる。
自分でも描き足しながら衝撃を受けている瞬の手元に、小さな顔が寄った。
「で、ここら辺に目が有るんだよね」
「目ェ!?」
舞が指で示すと、瞬は大きく身体を仰け反らせた。
その驚きぶりに逆に驚いたのか、舞は瞬を見て訂正を加える。
「あ、目っていっても人の目じゃないよ! 城戸さんみたいな切れ長の目の形が空いてる感じ!」
「……ってことは、顔みたいになってんのか」
「いや、ハッキリ人の顔とか人魂って訳でもなくてな……」
優弥は顎に手を当てて、例えられそうな物体を思い描く。
「……火とか霧とか、そっちに近い」
「不定形ってことか?」
質問した和輝に顔を向け、優弥は黙って頷いた。
それを聞きながら、瞬は更に修正を重ねていく。
そうして十分は掛けて出来上がったモノ。
それは、鈴鳥の背後で立ち昇る薄紫の瘴気。その瘴気の中には、無数の髑髏の顔がひしめいている。
横は鈴鳥の肩幅程も在りながら、瘴気は彼女の頭の上で形を成さずに揺らめき、まるで焚き火の炎のように頭上へ突き抜けていく紫の中に二つ、眼球の無い白く鋭い眼光がこちらを睨み付けていた。
「げぇ、マジでこんなん視えてんの? 俺、視えなくてホント良かったわ……」
完成された図を見て瞬が項垂れる。
夏樹が離れた今となっては確かめようも無いが、鈴鳥と対面した際に視えてなくて良かったと和輝も生唾を飲んだ。
こんなモノが突然目の前に現れたら、彼女と会った時の優弥や舞の反応にも納得だ。
「でも、これって背後霊っていうより……」
まひろは、その絵を見つめて率直な感想を言い渡した。
「怨霊って感じね」
どう見ても好意的には見えないそれに、和輝も同感した。
鈴鳥には言わないでおくべきだろう。言うにしても、今すぐにでは無い筈だ。
仮にこの絵を見せられて、今あなたの後ろにこんなのが居ます、なんて誰が信じられるだろう。
「んー……でも、私が見た感じそんなに怖くは無かったんですよねぇ」
夏樹は、凄いのは凄いんですけど、と付け足して首を捻っている。
「どっちかって言うと、優しい? みたいな?」
「優しい? これが?」
今一度自分で描いた絵に視線を落として、瞬は渋い顔をしている。
人は見掛けによらないとは言うが、霊に対してもそれが通じるのかは悩ましい。
目の前の歪んだ紫色は、今にも紙の中から飛び出して瞬を祟り殺してしまいそうだ。
「優しいって何だろな……」
理解を放棄してしまった瞬が、哲学を語り始めてしまった。
「そうだな、例えば……」
何故か優弥が瞬の言葉に続けようとしている。
また、いつもの瞬いびりが始まるのかと和輝は溜息を吐く準備をしたが、彼の口から出たのはそれとは掛け離れた台詞だった。
「誰かを守りたい、とか……かもしれないな」
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