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「じゃあ、私はこっちなんで……」

 校門を出た所で、鈴鳥紗枝は頭を下げた。

 この後の目的も特に決めていない和輝達には、彼女と一緒に行くのも悪くない。

 だが、彼女が一人で逸れたかった様子にも見えたので、誰もそうしようとはしなかった。

「……大丈夫? あれ」

 心配そうに、誰にともなく舞が問う。

 六人の視界の先で、黒いワンピースの背中が右に左に揺れていた。

 そのまま道路に飛び出したりはしないだろうが、その足取りはここまで来られたのが不思議なくらいだ。

「やっぱり……私、ついて行こうかしら」

 不安そうに、まひろは彼女の背中を見つめている。

 あのままでは、その内何処かで干乾びていそうだ。まひろの不安も解る。

「……そうした方が良いかもしれないですね」

 和輝は同意した。

 依頼人に倒れられては、幽霊どころではない。

 背後霊というのが気になるところではあるが、今では夏樹も加わった霊感三人組が何も言わないのであれば、火急の要件では無さそうだ。

「何かあったら連絡頂戴ね」

 そう言って鈴鳥の後を追うまひろを見送ると、優弥が何か言いたげに喉を鳴らした。

「皆、ちょっと良いか?」

 何時になく神妙な面持ちだ。早速何かがあったのかと、和輝は危惧した。

「こっちに来て欲しい」

 優弥が向かった先はまたしてもあの校庭であり、優弥が二度も反応を示した校門手前の木々の所であった。

 ここに何があるというのか。

「相田君、ここさ……」

 と舞が喋り出したところで、和輝は妙な既視感を得た。

 そうだ、この場所、この道と本条舞。

 昨日の肝試しに行く前、講義終わりに二人で通り、何故か舞が立ち止まったあの場所。

 となれば、疑惑の場所は自ずと絞られる。

 優弥は、その場所を視線で指しながら語り掛けた。

「あそこなんだが……和輝と瞬は置いといて、判るか?」

 相変わらず、和輝には何も見えない。

 優弥が何かを示しているというのは理解出来るのだが、それが何なのかはそれが視えているだろう三人を頼る他に術は無かった。

「何? なんかあんの?」

 和輝以上に何も気付いていない瞬は、目を凝らしてじっと木陰を見つめている。

 舞が瞬の隣まで移動すると、囁くように彼に告げた。

「あそこにね、霊が居るんだけどさ」

「いいッ!?」

 瞬が慌てて目を逸らす。舞は気にせずに続けた。

「ずっとこっち見てんの」

「でも見てるだけ、でしたよね」

 夏樹は不思議そうに優弥を見る。

「さっきの……鈴鳥さん? と関係が?」

「あぁ、彼女の背後に居た霊は気付いたか? 夏樹ちゃん」

 夏樹は手を叩いてそれに答えた。

「あぁ! あの凄いのですね! 私、あんなの初めてみました」

 本物が驚く位、強烈なのか。

 今更ながらに、和輝は辟易した。

 無事に依頼が終われば良いのだが。

「それがここを通った瞬間に、何て言えば良いんだろうな……膨れ上がった、か?」

「膨れ……?」

 想像が追いつかない。

 ただでさえ『噴き出ている』の感想を貰った後に、膨れ上がった?

「例えるなら、コンロの弱火が一気に強火になった感じだ」

 それは、噴き出ているのが弱火に当たるのだろうか。

 だとすれば、舞が「半端じゃない」と言っていたのも何となく解る。

「関係が有るとは思うんだが……」

 どう関係しているか判らない。優弥はそう言いたそうだった。

「男? 女?」

 瞬は細目になって、苦手なホラー映画を無理矢理観ている様に、顔を木々から逸らしながら視界の端で問題の場所に目を向けている。

「男だ」

「そうは言われてもな……」

 瞬よりしっかりと凝視してみるものの、霊感の無い和輝には全く見えない。

「あ、私見せてあげましょうか」

 まるで友人にノートの写しでも貸すかのように、夏樹が気軽に言った。

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