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「はい。ホントに、大学に居る間だけなんですけど……誰かに見られてるみたいな」

「ストーカー、ってヤツです?」

 夏樹が呑気な口を開く。

 鈴鳥は夏樹に対しても遠慮がちに首を捻った。

「いえ、そんな人を見た事はないんですが……急に、悪寒がするんです」

 和輝は、優弥の言っていた事を思い出す。

 そして忘れそうになっていたが、彼女の背後では彼の言うところ『霊が噴き出して』いるのだ。

 きっと無関係では無い。というより、それが原因とさえ思えた。

「あ、私そろそろ行きますね。お水、有り難う御座います」

 鈴鳥がベンチから立ち上がり、和輝達に向かって律儀に一礼をした。

「ん、見送ろう」

 優弥が身体の向きを校門に変える。

 鈴鳥は、慌てて優弥の前に立った。

「あ、いえいえ! そんな、大丈夫ですから!」

「いや、どうせ俺達も出るし」

 その言い方があまりに素っ気無かったからか、鈴鳥の肩が下がったのが和輝にもハッキリ見て取れた。

 優弥の背中に舞の拳がぶつかる、鈍い音がした。

「そこはせめて『心配だからついていく』でしょー!? ごめんね鈴鳥さん、この人恥ずかしがり屋だからさ」

 突然の衝撃と言葉に、優弥は何を返す事も出来ずに背中を押さえている。

「解らん……何が悪かったんだ……」

 痛くは無さそうだったが、彼はその痛みにずっと付き合わされそうな気がした。

 現在地から校門の距離まではそう長くはない。

 簡単な話題でさえ終わらせられないだろうその道すがら、夏樹だけが校門の手前でピタリと足を止めた。

「何か居る……」

 和輝もそれに気付いて同じ方向を向く。だが、そこに有るのは壁際から伸びた木々だけだ。

「……うげ、まだアレ居るんだ」

 舞も、鈴鳥に聞こえないような声量で項垂れた。

「ほっとけ、何もして来ないだろ」

 興味無さげに優弥は歩いていく。しかし、木々の地帯を抜けようかという時に彼は目を見張った。

「……何だ!?」

「えっ!?」

 優弥の声に驚いて、鈴鳥が振り返った。

 自分でも声を出すつもりは無かった、と言った様子で優弥は口元に手を当てている。

「あ、いや。何でも……」

 鈴鳥は訝し気に優弥を見ていたが、何も言わない事を悟ると再び校門へ足を運んだ。

 その間には、特に誰も大きく様子は変わらない。ただ、優弥だけは何か考えながら歩いていた。

 優弥がその考えを口に出したのは、校門を出た直後の事だ。

「済まん、ちょっと戻って良いか?」

 鈴鳥を含めた六人が、門の前から動かなくなってしまった優弥を向く。

「何だ優弥ちゃん、忘れ物?」

「いや……戻るだけで良い。ちょっと見忘れたものがあるんだ。鈴鳥さんも……良いか?」

「え、あ、はい。大丈夫……ですけど」

 鈴鳥の許可を得るなり、優弥は颯爽と踵を返して再び大学の中へと戻って行く。

 彼の行動を不思議に思いながらも、六人は顔を見合わせて彼の後について行った。

 大学の中に戻ったとて、特段何かが変わっている訳でもない。

 優弥に、この大学に見忘れたものが有るような思い入れも感じた事はないのだが。

 無言で、皆はここまでの道を戻る。

 一体何を忘れたのか考えている間に、先程優弥が声を上げた木々の所まで戻ってしまった。

 優弥の足がそこでピタリと止まる。

 何かを探している風にも見えたが、途中途中で和輝達を……いや、鈴鳥紗枝を視界に収めていたのが妙に気になった。

「……よし、行くか」

「はあぁ!? 何が有ったってんだよ、暑さでヤラれちゃったかぁ!?」

 瞬が憤慨するのも無理は無い。傍目に見ても何も無いし、優弥の行動は奇妙だ。

 瞬を無視して優弥は再度校門に向かっている。

 皆で顔を見合せたところまで先程の再現だったが、その中で二人だけが別の方向を向いていた。

 優弥の背中を追う和輝とまひろの後ろで、声が聞こえる。

「……アレ?」

「ですかねぇ」

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