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 数分後。

 部屋の中には、息を切らしてソファで項垂れる四人の姿が在った。

 四人掛かりの攻防の末、先に根を上げたのは優弥の方であった。

 神谷まひろは先程「じゃあ、彼のこと見張っててね」と言い残して部屋を出て行ったきり音沙汰が無い。

 出て行く際にも彼女は涼やかな笑みを浮かべたままだったが、額にはほんのり汗が滲んでいた。

「優弥……手加減って言葉、知ってる?」

 腹部を擦って瞬がそう言ったのは、彼のシャツにしっかりと大きめの足跡が残されているのが原因だ。

 事実を言わなくて本当に良かった。

 和輝が息を整えながら安堵した、更に十分後。

 扉の前に複数の足音が響いた。

 静かに、部屋の扉が開かれる。

 部屋に廊下側からの人工的な光が差し込んだと同時に、舞と優弥が全く一緒のタイミングで「うっ……」と何かが喉に詰まった音を出した。

 開いた向こう側に二人の女性。一人は勿論まひろだ。

 その後ろに隠れる様に、舞と同じ位の背丈をした黒っぽいワンピースを纏った女性が佇んでいる。

 伏し目がちな顔が部屋に居た四人を巡回し、部屋の四人共座っているのに上目遣いなのが自信の無さを表している様だった。

 彼女は、最後に中央のローテーブルへと視点を落ち着かせると、まひろと一緒に部屋に足を入れた。

「待たせたわね。彼女が依頼人の……」

鈴鳥スズトリ紗枝サエです……」

 消え入りそうな程に細い声で自分の名を告げた女性は、沈黙の間を嫌ったのか控えめな声量で続けた。

「人文学部……一年、です」

 背丈は舞と似て小動物のようだったが、性格は彼女と真逆の様だ。

 同じ小動物でも舞が元気に滑車を回すハムスターなら、鈴鳥紗枝は巣穴に籠って外を警戒するリス。そんな印象だった。

「同じく一年! 本条舞です!」

 そのハムスターが元気に手を挙げると、続かない名乗りに顔をしかめて隣に座る男の肩を小突く。

 小突くと言うには、少々威力が高かった様だが。

「……城戸優弥」

 打撃の入った肩の部分を押さえて、優弥が唸る様に言った。

「相田和輝です」

「俺、御堂瞬!」

 鈴鳥の顔を見上げて軽い会釈をしたところで、和輝は自分達がソファを占領しているのに気付いて席を立った。

 流石に立ちっぱなしで話をさせる訳にもいかず、ついでに瞬の肩も指で叩いてまひろの分も確保する為に退けさせる。

 それに気付いてくれたまひろが、手を差し出して彼女をソファへ座るように勧めた。

 だが、鈴鳥は一向に動こうとしない。

 不思議に思って皆が見ていると、彼女がおどおどとした視線で男子三人を見回している様子だった。

「あー……もしかして」

 言い難そうに優弥が口を開く。

 和輝と瞬に顔を向けているのに気付いて、瞬にも察しが付いた。

「俺達、一旦出た方が良い?」

 申し訳無さそうに鈴鳥はコクリと頷く。

 和輝達は今日の今揃った異物だ。事前に聞いていたサークルの情報とは違った、という事も有り得る。

 話を聞き出さない事には始まらないので、和輝、瞬、優弥の三人は互いに顔を見合わせ、一度廊下へ退出する事にした。

「……すまん、隣通っても良いか?」

「えっ? あ、はい……」

 出入口付近の鈴鳥とすれ違う時、優弥が妙な質問をした。

 別に女性不信などという訳では無いだろうに。現に先程まで至近距離に舞が居たのだ。

 鈴鳥の真横を通る際にも、優弥は変に緊張した顔つきでそろりと、しかし足早に部屋を出て行く。

「あの……私、何かしてしまいましたか……?」

 焦った表情を浮かべて、鈴鳥は次に通った和輝に問うた。

「い、いやいやいや! アイツ……あれなんだよ、人見知りだからさ!」

 適当に誤魔化してはみたが、理由の程は和輝にも解らない。

「じゃあ、終わったら呼びに行くわね」

「はい。また後で……」

 扉を閉める直前、改めてソファに促しているまひろと、遠慮がちに腰掛ける鈴鳥の姿が目に入る。

 視線を感じるな、と思ったら、舞が薄目でこちらを見つめていた。音の出てない口は「絶対戻って来てよ」と動いているようで、和輝は苦笑しながら扉を締め切った。

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