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「何で判んの?」
当然の質問を瞬が繰り出す。
「さっきから、大学ン中で嫌な気配がする。本条、お前何か感じないか?」
毒気にでも当てられた様な苦い表情で、優弥は舞に視線をやった。
舞は顎に手を当てて部屋の外に顔を向ける。言われるまで気に留めていなかったみたいだった。
「ん、うーっすら……と? てか、気配って言うならここに来る前から有ったしなぁ」
チラリと、舞の視線が和輝に動いた。
和輝の心音が高鳴る。そして、今の今までこの大学に自由気ままに彷徨う不明瞭な存在が居た事を、やっと思い出した。
まさか、優弥の言う嫌な気配というのは夏樹の事じゃないだろうか。
思い出すと急にその事にしか頭が働かなくなってしまう。アイツは今何処で何をしてるんだ。
皆が集まっている所に夏樹が来るのは良い。説明の手間も省ける。
だが、夏樹とは何の面識も無い一般人であろう依頼人が居る場で鉢合わせたら、ややこしい事態になりそうだ。
和輝が依頼人の事を訊ねたのは、その人物の相談内容が和輝と同じ境遇とまではいかなくても、何か霊的な関わりが有る事を期待しての発言だった。
目隠しをされて投げたサイコロの目を百回連続で言い当てろ、という位には低い確率だというのは承知している。
しかしその賭けに勝ったなら、もしかしたら有益な情報を得られるかもしれない。
幽霊から解放される情報を。
それに付け加える訳では無いが、女性に頼られているのは悪い気分では無かった。
力にはなってあげたいとも思うし、それが今日の相談に参加するだけで叶うなら特段気が引ける事も無い。
出来れば瞬か優弥のどちらかでも良いので一緒に居て欲しいところだが、優弥は既にハッキリ断りを入れたばかり。瞬はどちらとも取れないが、女性からのお願いを二つ返事で受け入れそうな彼がイエスもノーも言わない辺り、優弥に続きそうではある。
悩む。二人が首を縦に振ってくれたら、自分としてもすぐに賛同するのだが。
(……なんか、俺って)
馬鹿みたいだな。
思い悩んでいる内に、和輝の脳内はそれを放棄していた。
たかだかサークルの体験に参加するか否かを、友人二人の右に並んで待っている。
思えばここに至るまでも流されるような思考だった。誰かの意見が無いと、まともに動く事すら出来ないのか、俺は。
二人が居ないから何だっていうんだ?
自分が入りたいか入りたくないかを、他人に決めさせるって言うのか?
たまには自分で決めてみろよ。
和輝の中で何かが燻る。
二人の顔色を伺うのは止めた。
だから、和輝はこう言ったのだ。
「俺、その体験活動に参加するよ」
携帯画面を見ているまひろ以外の三人が、一斉に和輝の方を見た。
「……本当!?」
中でも一番驚いていたのは舞だ。
身を乗り出してローテーブルに手を付いた。その拍子でテーブルが少し動いたくらいには喜々としている様子だ。
「まひろ! 相田君、サークル入ってくれるって!」
いや、そこまでは言っていない。
念押しの為に、和輝は依頼人の存在を思い出させる事にする。
「も、もう大学まで来てるんだろ……? その……あんまり待たせても悪いだろうし」
すると、優弥がそれに続く様に付け加えた。
「この棟の下辺りだ」
それを聞いた瞬間、まひろが携帯画面からパッと顔を上げる。
「……本当! 今、下まで来てるんだけど入って良いのか迷ってるんですって! ちょっと私、迎えに行って来るわね」
「凄げぇな優弥……人間探索機じゃん」
感嘆の声を出したのは瞬だ。
対して、優弥は自嘲していた。
「曰くつき限定の、な」
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