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「この五人で、研究会として活動するっていうのはどう?」
澄んだ声と瞳で微笑して、まひろはそう言い切った。
和輝の予想は、悪い意味で裏切られなかった。
訊かれてはいるが、まひろの中では既に決まっているも同然の模様だ。真っ直ぐに向けられた顔は人を疑いもしていない。
男三人が、ポカンとまひろの顔を見返していた。
「……もしかしてだが」
優弥の口がゆっくり動く。
「初めからそのつもりで声を掛けたのか?」
呆れとも、感心とも取れる声色で彼はまひろに問い掛けた。
「失礼ねぇ、そこまで強かじゃないわ」
言葉とは裏腹に、まひろの顔から微笑が消えていない。
「思い付いたのは墓地に行く直前よ」
「とんだ思い付きだ」
今度はしっかりと呆れた口調で優弥が返す。
瞬は状況が呑み込めていないのか、それとも『オカルト』と『美女』の天秤が揺らいでいるのか返事に言いあぐねている様だった。
和輝はというと、反芻してみれば実のところ満更でも無かった。
夏樹の事がある手前、相談出来る機会が増えそうなのは単純に有難い。アイツとの付き合いを長くする予定は無いが、すぐに解決出来ない懸念も有る。
だから、有難い……のだが。
「……後日、じゃ駄目だったんですか?」
つい、正直な感想が口を突いて出てしまった。
善は急げと言うものの、昨晩からは約半日の仲。親睦を深めろなどとは言わないが、些か急ぎ過ぎじゃないだろうか。
まひろは和輝の顔をじっくりと見返す。
何か気に障る事を言ってしまったか、という怯えは必要無かった。まひろの口角が上がりっぱなしだったからだ。
「良い質問ね、相田君! そ、今日じゃないと駄目なのよ。何たって……」
まひろは、たっぷり十秒は使って次の発言までの時間を溜めた。
誰もが、神谷まひろの顔を見上げている。彼女はそれを待っていたかの様に、四人の視線を浴びて言い放った。
「今から『依頼人』が来るんだもの!」
一拍置いて、舞が目を真ん丸にして口を大きく開けた。
「いっ、依頼人ん!?」
男三人は思いも寄らない単語に言葉を失っている。
その中で和輝だけが真っ先に我に返る事が出来た。
「依頼人……って、サークル……ですよね? ここ」
普通の大学生活では、おおよそ聞く事は無いだろう。
少ないのではない。まず無い。
「えぇ、サークルよ。正式名称は『オカルト・ミステリー相談研究会』っていうの。知ってた?」
得意気なまひろに返したのは優弥。
「いや初耳だ。面白そうだな」
無表情なのが皮肉を物語っている。
が、今のまひろには逆効果だったようで、にこやかな語りを止める事はしない。
「そうでしょう? でもね、活動していくにはやっぱり実績、っていうのが必要だと思うの。私」
「それで、サークルとしての最低人数集めてついでに即実績作ろうってか」
ここまで予定されて計画された肝試しなら、大した行動力である。
詰まるところあの肝試しは、サークルの体験入部のようなもの。
「えーと、つまり……」
瞬が何かを言いたそうだったが、それ以上の言葉が出る事は無かった。
つまり、昨日の昼休み。出汁にされたのは和輝と優弥ではない。和輝と優弥と瞬の三人だった訳だ。
「まぁ、予め言っておかなかったのは……少し悪いと思ってるわ。本当のところは、昨日の肝試しから多少強引な流れで入部に持って行くつもりだったんだけど」
と、まひろが言っている事からも疑いの余地は無いだろう。
「多少、ね……」
呟いた優弥の声は、続くまひろの頼みに掻き消された。
「皆に集合の連絡をした直後に、依頼人の子からも連絡が来てね。今日行っても良いか、って! だから、今日だけ! 今日だけで良いの! サークルの活動体験をして貰って、入部するかどうか決めて貰えない……かしら……?」
最後は伏し目がちになりながら、まひろは口を
女性にそんな顔をされては、和輝としても如何せん断る気力が落ちてしまう。
乗るか、乗らないかはその瞬間に決定されたようなものだった。
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