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「瞬君、帰ってから大丈夫だったの?」
舞がローテーブルに前のめりに両手を置いた。
彼女が気にするのも尤もで、それは夏樹が言っていた事が不安を煽っていたからだ。
ビデオを回収しに伺います。そんな感じの言葉だった。
いつ、どのタイミングで家に行くとまでは申告されなかったが、あれが本当なら遠からず瞬の瞳はまた潤む事になるだろう。
だが、和輝は少なくともあの後すぐという事は無かったんじゃないか、と舞の質問に対して予測した。
何故ならこれも夏樹本人が言っていた事だが、どうも和輝が寝た辺りから和輝の家に居たらしいからだ。
和輝は帰ってすぐに眠ってしまったから、瞬の家に行く時間は無かったと思われる。
別に確信は無い。和輝が寝ている間に行っている可能性も有るし、本当の事を言っている可能性も有る。
自宅で話している時は、ビデオらしき物を持っている感じはしなかったが……。
「……本条」
のそりと、優弥が持っていた雑誌を閉じてそのままテーブルの上に投げ捨てた。
暑苦しそうに垂れた袖口から力の抜けた手招きで舞をソファに引き戻したかと思えば、何やら彼女に耳打ちをしている。
ボソボソとした彼の籠った低音から内容は聞き取れない。舞は真顔で数回頷いた後。
「……あの後、ネカフェに泊まったんだって!」
と声を大にして報告した。
これは顔の向きからして、和輝に言ったのだろうか。
「ちょ……優弥!? 何でバラしたの!?」
瞬が慌てて前傾姿勢になる。だがもう遅い。
「いや……まさかそのまま言うとは思わんくてな」
深々とソファに腰掛けている優弥は、大して悪びれた様子も無く言った。
ネカフェ……ネットカフェなら確かに一人暮らしの家より安全か。
大体の時間帯に他の客も入っているし、何か起こればすぐに助けを呼べる。
座席も大方の予想は出来た。隣とは薄い板一枚だけで隔たれたオープン席だ。
「じゃ、アタシが気になってた事は消化されたし。そろそろ……何で部室に集まったんだっけ?」
「お前が止めたんだよ」
すかさず優弥が口を挟む。
和輝は、舞のある一言が引っ掛かった。
「……部室?」
「うん! あ……相田君には言ってなかったね。アタシとまひろ、オカルト研究会のサークル員なんだ!」
まひろが舞の背後まで動き、彼女が座っているソファの背もたれにずっしり両手の体重を掛けた。重みで舞の身体が沈んでいる。
「正確には『オカルト同好会』ね。私と舞しか居ないもの」
そう言えばそんな規則が有ったな、と和輝は思い出す。
この大学で正式なサークルを設立するには一定以上の人数が必要になる。厳密には五人以上だ。
四人以下でも『会』と呼ばれるものは生徒同士で自由に作れるが、会費の負担、会としての活動範囲は自己負担と自己責任になる。
「でもさぁ、もう研究会って言っちゃって良いんじゃない? 顧問の講師っぽいの、居るんでしょ?」
「誰だよ、そんな物好き……」
瞬が頬杖をついて萎びた声を出す。言っている事はその通りだと和輝も思った。
要は大学側から認可されていないにも関わらず、何をしているかも解らない二人の女子の面倒を大学の一室まで貸し与えて見ているのだ。
これが物好きと言わずして何と言おう。
「それは、確かに居るには居るんだけど。でも人数が揃ってないのも確かなのよね。これじゃあ講師の人にも申し訳無いわ」
まひろは体重を預けていたソファから姿勢を正すと、今度は優弥側と瞬側、両方のソファの間に立って皆の方を向く。
「そこで、よ!」
和輝は、何となく察しが付いた。
少なくとも自分には良い発表では無さそうだという予感だ。
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