四章:類が変なの呼んで来た
P.66
強い日差しが降り注ぐ。
夏の本番はまだもう少し先だというのに、体感温度は歩く事を億劫にさせている。
和輝は坂の無い平坦な道程を、たっぷり時間を掛けながら突き進んでいた。
彼としてはこれでも足早に歩いているつもりだ。早く室内に入って涼みたい。
しかし何分、先刻から足の疲労と気温が尋常ではなく、それが和輝の歩を遅らせる原因になっていた。
「そう言えば、学校行かなくて良かったんですか?」
背後から夏樹の声がする。
振り向く気力も失われつつあった和輝は、前を見据えたままに頭の中で大学までの距離と時間を計算しながら返答した。
「だから今行ってるだろ」
「そうじゃなくて!」
声の距離が近くなった気がする。
「授業ですよ! じゅ、ぎょー!」
その心配をするなら家で大人しくしていて欲しかった。
それに、そんなのはただの杞憂だ。
「今日は休みだよ。じゃなきゃ、あんな時間まで外に居る訳ないだろ」
そう、瞬からの連絡が不思議だったのはそこにも有る。
休みの日に何故大学に集まるのか。
遊びに行く集合場所として適しているようにも思えない。もっと、駅前とか現地とかでも良いだろうに。
大学ではないといけない何かでも無ければ、何が楽しくて休みの日まで見慣れた校舎に向かわなければならないのだろう。
まだ終わらせていない授業課題が脳裏を過ぎり、少し気が重くなった。
相田和輝のアパートから大学までの距離はそう遠くない。
こうしてトボトボ歩いていても、ものの二、三十分も有れば着いてしまうだろう。
早く起きた朝なら、最寄りのコンビニに立ち寄る時間も充分に有った。早く起きられれば。
大学に通いだして数箇月。和輝は早くもブルーな気分になりつつある。
高校との変化を感じて面白かったのは、最初のたった一箇月だけだった。
思えば、何を求めて大学に入ったのかも定かじゃない。
何かを学びたい訳ではなかった気がする。ただ漠然と、高校を卒業したら大学に行こうという気分だった。
ネットを見れば仕事の愚痴や不満の言葉が蔓延っている。
まだ学生気分を味わいたかったのかと言われれば、否定は出来ない。
初めて大学のオープンキャンパスというものに行った時、大学内の和気藹々とした雰囲気に和輝の天秤は傾いた。
就職するよりはこっちの方が楽しそうだ、高校より充実した学生生活を満喫出来そうだと、軽い気持ちは容易く風に乗った。
結果はどうだ。
何も変わっちゃいない。
毎日の通学と講義。眼の下の取れないクマも手伝って中々繋がらない友人関係。
平凡で良い、を人生の教訓としている一方で、このままで良いのか、という思いも時々胸に燻っている。
そんな日常に居る和輝を突然突き飛ばして来たのが。
「和輝さーん! あっちクレープ屋さん在りまーす!」
アレだ。
「クソ……足、速いなアイツ……」
考え事をしている間に夏樹に先を越されてしまった。
保護者でも何でも無いが、目の届く範囲に居てくれなければそれはそれで不安だ。
目の前を行ったり来たり忙しない夏樹を横目に、和輝は大学への歩を速める。
クレープ屋の前を素通りして。
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