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「じゃあ、お前がここに来た目的をそろそろ話して貰おうか」
徐に、床のクッションの上にどっかり胡坐を掻いて、和輝が口火を切った。
何故か投げつけられた枕を抱えたままの夏樹は、そのままベッドに座って目を擦っている。
「目的、ですか」
言い淀んではいるが、何も無いなんて事は無いだろう。
ただの好奇心で憑りついて来たのなら、良い迷惑だ、でバッサリ切る事も出来る。それで追い出せるかは話が別だが。
なら、と和輝は切り口を変える事にした。
「……人の家にまで来たのは初めてなのか?」
途端、夏樹の姿勢が前のめりになる。
「うん、そうですよ! いやぁ、お墓以外の場所は新鮮ですねぇ」
違和感を感じる。
和輝は昨夜……厳密に言えば、今日の深夜に墓場で遭った夏樹の言葉を思い返した。
『最初は和輝さん達みたいに、ここに肝試しに来た人なんかを驚かせてたんですけど』
この
にも関わらず、その人物の家には行った事は遠回しに否定している。
好奇心でここまで来たのなら、何故その時は憑いて行かなかったのだろうか。
若しくは、憑りつくのには相田和輝ではないといけない何かが有ったのか。
そこまで考えが行き着いて、和輝は軽く頭を振るった。
飛躍し過ぎている。馬鹿みたいな考えだ。
自分の様な何の取り柄も無さそうな男に、そんな特別な理由が有る訳がない。
(そうだよ、どうせなら……)
和輝はあの場に居た他の四人を思い出す。
そしてふと疑問が湧き、それはそのまま口から出た。
「……何で本条や優弥じゃなかったんだ?」
何かの目的が有るのだとすれば、そちらの方が自然だと和輝は思った。
本条舞、城戸優弥。二人共に幽霊の存在を認めている。
二人が何処までそれを視認出来るのか定かではないが、何かを誰かに伝えるにも復讐するにも、同じ霊を感知出来るその二人を頼った方が都合が良さそうなものだ。
怨み辛みしか喋れない霊ならまだしも、日常的な会話をこれだけ受け答えする事が出来るのだから。
「あー、それはですねぇ……」
夏樹はまたも言い難そうにしながら、目線を横にずらした。
こちらはちゃんとした理由が有りそうだ。
と、答えを待つ前に、ベッドの上から振動音が聞こえた。
「うおぅ」
妙な声を出して、夏樹が自身の臀部の下を弄る。
彼女の手が探り出したのは、和輝の携帯電話だった。
きっと寝ている間にボトムスのポケットから落ちてしまったのだろう。
「和輝さん電話ー」
突き出された画面の表示を見て、和輝は素早く夏樹の手から携帯を奪う。
「電話じゃねーよ、見るんじゃない」
画面には友人知人との連絡用のアプリ、そして見知った友人の名前が表示されていた。
和輝が言えた事ではないが、あんな事が遭った日の昼から良く起きてるな、と思いながら、和輝は携帯の画面に指を置いてアプリを開いた。
「お、瞬君からですねー」
言っても聞かない後ろの幽霊はこの際無視する事にする。
それより、和輝はそこに表示された友人、御堂瞬からのメッセージが不思議でならなかった。
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