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 目の前の少女には、罪悪感など微塵も感じられないように思えて仕方が無かった。

 全く悪びれる様子の無い顔もそうだが、『居て当然』の空気で和輝がいつも使っているクッションの上に腰を下ろしているのもそうだ。

「和輝さんが帰って来てから、ずっと居ましたよ?」

 夏樹は呑気に、何故昼間から来たのか、に対する答えを述べた。

「違う。そうじゃない」

 それもかなり問題だが、そういう問題ではない。

 夏樹はハッとしたように口元を手で覆った。

 彼女は気付く。

 和輝が欲している答えは、何故自分が怒っているのかに対してなのだと。

「あ……朝ご飯、作ってなかったから……?」

「そんな新婚さんみたいな問題じゃねーよ!」

 しかし、これも違った。

 おかしい、と夏樹は首を捻った。

 夏樹にはこれ以上の心当たりがまるで無かった。

 不法侵入だとか、拒否された事をあっさり無視して来た事だとか、彼女の中ではそれが当たり前の事だと言わんばかりに、他の原因を考えた。

「もっとこう……根本的な事って言うかさ……」

 ここで和輝から最大限のヒントが出る。

 あぁ、なるほど。と夏樹は手を叩いた。

 そうか、それなら理解出来る。初めからそう言ってくれれば良いのに。

 正解すれば彼の機嫌が直るとも思えないが、まずは問題に答えてお互いに納得し合おう。

 夏樹は途端に笑顔を取り戻し、己の信じる答えを出した。

「和輝さんがメッチャ怒ってる」

「そう……」

 和輝は目を閉じて即刻肯定した。

 夏樹は心の中でガッツポーズをした。

 だが、彼の言葉が続かない。

 夏樹は幽霊人生において、初めて眉と眉がギュッと内側に寄るのを見た。

「……だけどそれスタート地点な! 今までのやり取り何だったんだよ!」

「これも違いましたか……」

 こいつは本当に答える気が有るのか、と和輝は頭を抱えた。

 勿論夏樹には有る。

 有るのだが、恐らく出発の時点で別々のレールに乗ってしまっている。

 しかも出発地点も違えば目的地も違うレールだ。

 これ以上の問答は時間の無駄かもしれない、と和輝は約半日ぶりに溜息を吐いた。

 そして同じ事を夏樹も考える。

 これは私には導き出せない問題だ。何だか自分が悪い様だが、今は棚に上げてしまおう、と。

 結果、夏樹は新たな解決手段の引き出しを開ける。

「じゃあじゃあー。おはようのチュウとかで許してくれますかぁ?」

 和輝は目一杯息を吸い込むと、雪崩の如く怒りを吐き出した。

「許さねぇしする意味解んねぇしそもそも何でお前はここに居るんだッ!!」

 ここに来て夏樹に新たな難問が突き付けられた。

 和輝が一番最初に言っていた事ではあるのだが、別のレールに乗っていた夏樹には初耳だった。

 何で、か。と夏樹は頬に片手を当てる。

 それは非常に難解な質問だった。

 ともすると、彼には残酷な解答となってしまうかもしれない。

 精一杯の柔らかな言葉を頭の中で選択して、夏樹は発言を試みた。

「んん、何て言うか……一番女性関係に疎そうだったから……?」

「はいそこ、余計なお世話!!」

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