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「やっぱり……ダメでしょうか……」
幽霊少女が項垂れた。
瞬間、これまでの快活さが嘘の様に、墓地の雰囲気と同化してどんよりとした空気が彼女を包み込む。
和輝はそろりと幽霊少女の顔を覗き見た。
二重瞼のクッキリした瞳が潤んでいる。
目頭から、今にも大粒の雫が零れ落ちそうだ。
「……和輝」
隣で同じ光景を目にしていた優弥に名を呼ばれる。
嫌な予感がして返事が遅れた和輝を待たずして、彼は続けた。
「いくら幽霊とはいえ、女の子を泣かせたら駄目だ」
そして涼やかな声もそれに追撃を重ねた。
「そうよ相田君。まずは話だけでも聞いてあげましょうよ」
お前らはどっちの味方なんだよ。と和輝は言いたかった。
表情の乏しい優弥からはどちらとも取れないし、まひろの表情は冗談を言っている様子には見えない。
視線を移すと舞も彼女の言葉にうんうんと頷いている。
五人中、三人が賛成の意思。厄介だ。
「まぁ……良く見りゃ結構可愛い……しな」
最後にボソリと呟いた優弥に、瞬が思いっきり顔を上げた。
「それ本気の発言で御座いますか?」
瞬は飽くまでも否定的な様子だ。
いつの間にか幽霊少女から一番遠い位置に陣取っている。
正確には、優弥とまひろの隙間に収まりつつも、背後で何か起これば瞬時に二人の服を引っ掴める場所に下がっていた。
優弥は小さく唸ると、真っすぐ見つめて来る瞬から目を逸らした。
言葉に詰まっていた事からして会話する事に賛成か反対か、と言うより、目の前の幽霊少女を慰める気持ちで発言したのかもしれない。
「貴女、お名前は有るの?」
まひろは目線を合わせる為に、前屈みになって幽霊少女に質問した。
「えーとね、
「あら、ちゃんと名前が言えるなんて偉いわね」
まるで幼児を相手にしているようだ。
実際、改めて見るとまひろと比べて幽霊少女――森崎夏樹は随分と幼く感じる。
それは恐らく、五人の中で一番小柄な舞よりも少し低い身長と、黒髪の隙間から除く丸っこい顔の輪郭がそう思わせているのだろうと思う。
こんな寂れた墓地には似合わない白いワンピースを、目立った汚れも見せずに身に纏っている。
その先端からは時折水滴が落ちていた。良く見ると、腰まで伸びた黒髪の先にも水分が溜まっている。
水滴を目で追っていた和輝は、夏樹の足が何も履いていない事に気が付いた。
何故裸足なのか、を幽霊に問うつもりは無い。
ただ、こうやって話している限りどう見てもそこら辺の女の子と大差の無い彼女に対して「痛くないのかな」という疑問は湧いてしまった。
自身に多大な視線が集中している事に気付いた夏樹は、慌てた様子で両手を身体の前で震わせた。
「あ、あの。断っておきますけど、皆さんの思ってるみたいな幽霊では無いです!」
森崎夏樹の言った『幽霊』とは、井戸から這い出て迫り来て、あの呪いのビデオを見せつける某有名な幽霊の事を指しているのだろう。
それはそうだろうな、と和輝も薄々に感じてはいた。
もしそうであった場合、既にこの世から旅立っていたに違いない。
それならそれで新しい疑問も生まれてしまう訳だが。
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