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皆の視線が一斉に優弥へ集まった。
瞬もまひろも驚いて目を丸くしていたが、瞬が恐怖寄りであるなら、まひろは嬉しさが混じったような……いや明らかに混じっている。
「そう、それ! 何ならアタシより強くない!?」
ここぞとばかりに、舞も和輝に便乗する。
当の優弥は、口に片手を当てて何かを考え込んでいた。
和輝はあの仕草を見た事が有る。
前に『車は持ってない』と言った数日後に、瞬と和輝に運転している所を見られた、あの時だ。
結局それから遠出をする時は足にされてしまっている。
そして、バレてしまった後の彼はやけに潔かった。
「……ま、今更お前らに隠す事でもねぇか」
口元の手がダラリと下がって、優弥は軽い溜息を吐く。
「ただ『何となくそう見えるし聞こえる』ってだけだからな? 本条より強いかどうかも判らん」
優弥は更に語る。
霊が居る場合、そこから『空気の圧』のようなものを感じるらしい。
墓地に入った時は何も感じなかったが、進んで行くに連れて後ろから押されるような『圧』を感じた、と。
それが恐らくあの足音の主か、若しくは主達なのかもしれない。
目の前に立たれればハッキリと視認する事が出来るが、実体として触れる事はほぼ出来ない。言葉が通じるなら、会話は可能だ。
稀に強い力の霊には触る事も出来るそうだが、殆どが空気の塊のようにしか感じられないそうだ。
「……だから、本条より弱いかもしれん」
まず本条の霊感がどの程度か知らないからな。と最後に付け加えた。
「アタシ……」
一通りの説明を受けて、舞はポカンと口を開いた。
「……喋ったり出来ないんだけど」
それを聞いて、優弥は居心地が悪そうに首の後ろを掻いた。
「隠してたのは何で?」
まひろが問う。心なしか、優弥に距離を詰めて来ているように見える。
それを感じ取ったのか、優弥は一、二歩後退ってから答えた。
「……まぁ、色々有るんだ。大した理由でも無いけどな」
しかし、これで少し納得がいった。
ここまで優弥が妙に冷静に行動していたのは、きっとこういう状況にも慣れていたからなのかもしれない。
「じゃあ……足音がどうなってるのかも判るのか?」
すっかり落ち着いた和輝は、優弥に改めて訊ねる。
優弥は、しっかり縦に頷いた。
「判る。今は辺りには居ねぇな。少し休んでから戻っても問題無いだろ」
瞬、和輝、舞の三人の気が緩み、四人の盛大な息が漏れた。
これだけ落ち着いた人間がそう言っているのだ。安心の桁が違う。
「マジでヘトヘトだわ……」
手に着いた砂を払い落としながら、やつれた顔で瞬が立ち上がった。
「ホント。一生分走ったんじゃない?」
「帰ったらすぐ風呂に入りたいなぁ……」
「頑張ったねー」
「こんなに走ったの何時ぶりかしら?」
「高校のマラソン大会以来じゃないか?」
「城戸っち、あん時サボってたろ!」
後は車に戻って、帰路に着くだけだ。
大変な思いはしたが、一季節のイベントとしては成功した、のではないだろうか。
暫しの談笑にやっと空気が和む。六人がこうやって会話するのも後少し……。
(……ん?)
真っ先に気付いたのは和輝だった。
「い……今、おかしな奴居なかったか!?」
突然慌てふためく和輝を、瞬がキョトンと見ている。
「なーに言ってんのよ和輝ちゃーん。増えてたら流石に気付くだろ……」
「ねー」
瞬が言葉を途切れさせた。続け様に、誰も聞いた事の無い声が相槌を打った。
全員、その場で固まった。
皆の輪の中に。
瞬と舞の間に挟まれた位置に、長い黒髪と白のワンピースをした女が、瞬を見上げながら立っている。
本当に。どうして。突然。
「うっ……」
舞と優弥も居ながら。
誰も、気付かなかったのか。
「うおぉぉぉおおい!? なっ、何で……いつの間に……!」
瞬と舞がほぼ同時にその場から飛び退いた。
「オイオイオイ、気配無かったぞ!」
流石に優弥も混乱を隠し切れていない。
「ま、まひろっ!」
舞はまひろの傍に駆け寄った。
しっかり腕を握っている。こういう時に頼もしいのは、やはり一番落ち着いた人間のようだ。
まひろはその女から目を離さず、しかし握る舞の手にも自分の手を重ねて、しっかりとした口調で言った。
「……増えてる!」
女は何がそんなに興味をそそられたのか。
それとも今から襲う標的を定めているのか。
少なくとも和輝にはそうとしか見えなかったが、キョロキョロと辺りを見回すその女は、何処か追い詰められた時の瞬にも見えてしまった。
女はひとしきり顔を動かした後、こう平然と言ってのけたのだ。
「……誰が!?」
余りにも呑気な質問。
誰もが同じ答えを思った。和輝もそうだった。
そして相手が幽霊だと知りつつも、こう言わざるを得なかった。
「お前だよ!!」
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