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全員、呼吸の音しか発していない。
頭に酸素が回らない。一度止めてしまった足も、これ以上動かせる気がしない。
表情の変わらない優弥とまひろは判らないが、残り三人の体力が尽き欠けているのは明々白々だ。
その内の一人が、顔に掛かったセミロングの髪を掻き上げながら発言した。
「……ホントに出て来たねぇ!」
自前の明るい声質で、落ち込み気味の空気を一新させようとしてくれている気がした。
空元気であるのは舞自身も自覚しているだろう。表情筋の変わらない汗だくの顔が、それを物語っている。
優弥の車まで後どれ位だろうか、と和輝は考えた。
それまで気力だけは持たせなければならない。
肉体的に限界は近い。自分の精神の安定の為にも舞と会話をしたかった和輝は、適当な話題で繋げる事を試みた。
「……て事は、あのビデオも本物だったって訳か」
近くで舞と同じ姿勢だった瞬が、地面にべったり臀部を付けると空を仰いで、荒れた息と一緒に声を出した。
「そんな……悠長、な事……言ってる場合かよ……マジ死ぬって……」
再び沈黙が訪れてしまう。
瞬は手に持っていた筈のビデオカメラが無い事に気付くと、慌てて周囲をまさぐった。
「まひろさん、ごめん……カメラどっかに落としたかも……」
肝心のまひろは至って冷静に、微笑さえ浮かべてそれに応える。
「あぁ、良いのよ。体験に勝るもの無し……ってね。大事なデータが入ってた訳でもないもの」
心配する必要は無い。
まひろの落ち着いた物言いはそうも言ってくれている様で、瞬は心底安堵した息を吐いた。
「で、改めて訊いておきたいんだけど」
まひろが続ける。
「本当に、さっきのは誰も知らないの?」
その質問には、和輝は逃げる際に知らないと否定している。瞬も首を横に振った。
「……仕込んだ?」
呟く瞬の目線が舞に向いている。
ウロウロと歩いていた舞がそれに気付くと、無言で彼に近付いて思いっきり肩を引っ叩いた。
「そんなワケ無いでしょ! 大体、誰があんな所で待ちぼうけされンのに付き合ってくれんのよ!」
「誘われてからの時間的にも、俺達じゃ無理があるしな……」
逸早く調子を戻した優弥が否定を重ねた。
すぐに返ってくる言葉が無かったからか、安否の確認を付け加える。
「……皆、無事か?」
「ン何とかぁ……」
間を置かずに舞の返答が聞こえた。声に覇気が宿っていない。
「舞、最初に聞こえたって言ってた足音の方はどうなの?」
まひろの言葉で、全員に再び緊張が走った。
そうだ、まだそれもあった。
和輝は向きたくもない墓地の方を向いて、耳をそばだてる。
「聞こえ……」
「……ない?」
自分の聴力を信じ切れていない舞に、和輝が後押しする。
勘で言っているのではなく、先程までの騒動がまるで嘘であったかのように、辺りは静まり返っていた。
「……ないよね」
うんうん、と頷きながら同意した舞は、そのまま一人の男に視線を向けた。
「……何で俺を見るんだ」
訝し気に優弥は問うた。
「や、どうなのかなって」
「お前が聞こえないっつってんなら聞こえないんだろ」
ぶっきらぼうに彼は返す。
助けを求めるように舞が和輝を見上げるので、和輝はついに、彼に抱いていた違和感を直接ぶつける事にした。
「……なぁ、優弥。お前さ……」
「あん?」
切れ長の目が和輝を捉えた。
睨まれているような感じがしたが、和輝は気にせず続きを述べる事にする。
「霊感、有るんじゃないか?」
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