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「タイミングが良かったのよ」

 まひろは、たったそれだけ言うと沈黙した。

 まるでこちらの思考がぐるぐる回っているのを楽しんでいるかの様な沈黙だった。

「タイミング……って?」

 一本道の会話の筋を、恐る恐る和輝が辿る。

 相変わらずまひろは前を向きっぱなしで顔は見えないが、きっと美しい程の微笑で飾られていることだろう。

「私がビデオを入手したのが一週間前。そして彼が話を持ち掛けたのが五日前。私達も昼間には下見に来られたけど、流石に真夜中に女二人で人気の無い場所って……ね?」

 クスッと小さな笑い声が続けて聞こえた。

 確かに。場所が場所なら何度もナンパをされても不思議じゃない二人組だ。

 それで済めばまだマシだが、こんなところで襲われでもしたら面倒事では済まされない。

「なるほどね……そっちはそっちで考えてたってわけか」

 聞き慣れた低音が背後で唸った。

 その声に、漸くまひろが後ろを振り向き、その場に止まった。

 あまりに急に止まった為、一、二歩の時間差で舞、和輝、瞬も歩みを止める。

 瞬と舞もまひろに合わせて振り返ったが、和輝は相変わらず後ろは見ないようにしていた。

 首だけほんの少し横に動かしてみたが、力一杯横目にしても当然の様に声の主は視界に入ってこない。

 だが振り返った三人が特段なんの反応も無いことから、声の主は本人であることは間違いないだろう。

「あら……あなた、置いて行ってしまったと思ったけれど」

「お前らが急に遅くなるからだ」

 優弥は鼻を鳴らすと、そう言って同じく立ち止まる。

 特段歩く速度が速いわけでもなく、やや後方に離れていた彼が追いついたということは、会話をしていたせいもあるだろうが本当に遅かったようだ。

 微笑を浮かべたままのまひろは、返事の代わりに首を小さく傾げて先程の優弥の言葉に答えた。

「ま、考えてたって程じゃないけど、そんなところね。私たちはここに来たかった。彼はこういう所に行ける女性を探してた。それがバッチリ噛み合ったってわけ」

「泣きたくなるな」

「嬉し泣きかしら」

 重ねるように皮肉を返され、優弥は無言で和輝と瞬の横を通り抜けた。

 足にされた事を根に持っているのか、優弥はその言葉以降を続ける気はないようだ。

 彼もまひろと舞の後について行くのかと思いきや、そのまま彼女らまでも通り過ぎると、一人でさっさと先へ進んでしまった。

 和輝と瞬、まひろと舞の四人はポカンとした表情で、小さくなる優弥の背を見つめる。

 まさか置いて行かれるとは思っていなかった。

 暗闇の中に優弥が消えていくかと思ったら、ギリギリ視認出来る場所で今度は急に立ち止まって振り返っている。

「おーい! 早く来いよ!!」

 遠くからでもよく響くその声で、四人はハッとなって歩き出すのだった。

「あいつ……よく一人で進めるな」

 和輝が誰ともなしにつぶやく。

「ほんっとマイペースだよなアイツ」

 和輝の後ろを歩く瞬が、感心したような調子で背中越しに三人にまとめて言葉を飛ばした。

「いっつもああいう感じなの? あの人」

 舞が振り返って問う。

 久々に声を聞いた気がしたが、恐らくここに来てまひろが活き活きとした雰囲気に変わったせいもあるのだろう。

 和輝と瞬は互いに顔を見合わせて、二人同時に舞を見返した。

「まぁいつもと言えば」

「いつも通りだなぁ。城戸っちは」

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