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二人の背中越しに広がっている墓地を見て、和輝は思っていたより綺麗だ、という感想を抱いた。
ちゃんと人が歩けるように舗装された通路に、それを挟むようにして墓石はほぼ等間隔に並んでおり、その墓石自体も綺麗な長方形に整えられた、言ってしまえば二〇二〇年台『今風』の作りだ。
ビデオの雰囲気から察するに、乱雑にボロボロの墓石が並んでいるようなイメージだったが、なんだかこれはこれで拍子抜けしたような気分だ。
ただ、入り口に近い所なのにそのどれもが既に苔むしているのは気になる。
周囲に生えた草花なんかも清掃された形跡がなく、伸び放題となったものは通路にまで浸食していた。
雑草の隙間からやたら主張してくる狗尾草を腕で払いのけ、和輝は先頭の二人の背を頼りに奥へと歩を進めた。
「うっはぁ、夜に来ると本当になんか出そう」
そんな中で、まひろを横に置いて歩く舞が呟く。
最初は何の気無しに入って行った様子に見えたが、その背はゆっくり歩いているはずの和輝が追い付きそうな程に近くなっている。
舞が考え事でもしながら歩いていればすぐにでも追い越してしまいそうだが、和輝が先頭を歩いても井戸に辿り着ける気はしない。
仕方なく自分も更にゆっくりと、一歩一歩踏みしめるような速度に落とすと、今度は左腕に肌の感触が重なった。
「こんな場所に来るとは思ってなかったわ」
身体全体が跳ね上がるように反応したが、触れた相手が瞬であったことを認識して胸を撫で下ろす。
「……ん? お前も場所決めたんじゃなかったのか?」
誰にともなく言った瞬に対し、彼と横並びになるとそう疑問をぶつけた。
「違う違う。俺は話持ち掛けただけ。場所は、神谷さんと舞ちゃんが決めてくれたんだ」
どうやら、肝試しの発案者でも全てを知らされている訳では無いようだ。
と言うより、場所が全てと言っても過言ではない肝試しでそれを知らされていないとなると、割合的にも九対一くらいで彼女たちのほうが主導権を握っているのではなかろうか。
出発前からの意気込みからしても、やはり彼女たち……いや、神谷まひろを先頭に立たせておくのが正解のようだ。
「御堂君はね」
突然呼ばれた友人の名に、和輝は、そして瞬も一呼吸分の間を置いて首から上を震わせた。
視線だったり、身体の向きだったり、話し掛けられるというのにも少なからず心の準備というのは有ると思う。
それを今、彼女は一切無視してこちらに語り掛けたのだ。
名前を呼ばれた瞬でさえ、和輝と同様の反応をしてしまっている。
まひろは頭も身体も前を向いて歩いているのに、ハッキリと聞こえる澄んだ声で言葉を続けた。
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