P.35

 先頭をまひろに、その後を舞。

 そして三人の男がそれに続く。

 皆、車から降りるなりそれぞれ鞄に入れた自分の手荷物を引っ提げた。

 肝試しに行くのに何をそんなに持って行く物が有るのか、とも思ったが、かく言う和輝もハンドバッグを肩に掛けている。

 中身は財布に虫除けのスプレー、そして懐中電灯。

 携帯のライトでも充分だろうが、雰囲気を出すならこっちの方だ。

 瞬と優弥だけは何も提げておらず、財布と携帯で膨らんだズボンで歩いていた。

 来た道を戻るというのは単純に億劫な気持ちになる。

 新たな地に臨むという新鮮味が薄れるからだ。

 何より、またあの病院を気にしなければならないという、謎の緊迫感も有る。

 心臓の辺りがやけに熱くなっているのを考えると、むしろそちらのほうが強いのだろう。

 駐車場から墓地の入り口まで歩いて移動する間、和輝はなるべく向かい側になる左を視界に入れないようにして進んだ。

 かといって右を見ても墓地なので、自ずと視線は瞬と舞、まひろの背中を入れることになる。

 後ろの優弥がまたいつの間にか居なくなっていないか、ふと不安になったが、振りかえると左右のどちらかを目にしてしまいそうだったので和輝は敢えてこのまま歩くことにした。

 やがて前方の三人が止まるのを見ると、和輝もそれに迫る形でその背に接近する。

 背後からは鍵の音と共に、アスファルトを蹴りつけるような足音がゆっくり近づいてくる。

 大丈夫、優弥もちゃんと来た様だ。

 五人が揃う中、和輝はふと携帯で現在の時刻を確認してみる。

 丑三つ時に入ってから十分を経過しているのを確かめると、胸の奥深くに居座った重苦しい空気と一緒に息を大きく吐き出した。

 そうして出てきた息に釣られ、彼の内なる感情面もおまけのように吐露を重ねた。

「何もわざわざこんな時間に来なくても……」

「そしてこんな場所に墓地建てなくても……」

 瞬も和輝に合わせてか眉を潜めて続ける。

 そう思うのは自分だけではなかったか、と和輝は一瞬安堵のようなものを覚える。

 が、何度も言うようだが瞬に関しては例えこの先幽霊に追い掛け回されようが憑りつかれようが完全に自業自得だ。

 瞬と和輝が二人揃ってげんなりとしているところに、優弥は呑気に追い付いてきた。

「ここからだと本当にすぐ向かいが廃病院なんだな」

 どうやら彼には廃病院から醸し出される気がする重圧も、まるでたった今から面接試験に向かわせられるような息苦しさや高揚感も通用していないようだ。

 それが和輝には羨ましくもあり、ある意味頼もしくもあった。

 誰が言い出す訳でも無く、ここまで歩いてきた順に――つまりは、まひろと舞から墓地へと入って行くと、和輝もやや急ぎ足でそれに付いて行く。

 自ら進んで墓地の中へ入るというのは気が引けたが、それでも最後尾で廃病院の妙な重圧を感じながら歩いて行くのに比べれば、何倍もマシだった。

 多分、その役目は優弥が負っているのだろう。

 マイペースだからか、彼は追いつくのも遅れるのも自分の好きに出来る最後尾を良く好む。

 マイペースにそんな一面があるのかはさておき、この場に置いては、そんな彼個人の性格が大変有難く感じられた。

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