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「経営不振……」

 突然、まひろが窓の外を眺めながらポツリと言った。

「と、いうことになってるわね」

「引っ掛かる言い方だ」

 殆ど間を空けずに、優弥から疑問の声を投げ掛けられた。

「でも潰れた理由なんぞ俺も知らん。調べたのか?」

「まぁ、流石に……って言っても、ネットにも載って無いような所だったから、聞いて回っただけだけど」

 一連のやり取りに、和輝も首を傾げる。

 経営不振?

 自分の記憶の中では、そんなに閑散とした病院でもなかった筈だが。

 だが、それも幼い時の記憶だ。

 時代の移り変わりは唐突に訪れる。

 もしかしたら、行かなくなってから何かあったのかもしれない。

 相変わらず窓の外だけを眺めるまひろに、和輝は問うた。

「他に何か理由が有りそうなんですか?」

 まひろはこちらを向かず、暫く考えるようにして間を空けてから返しだした。

「んー、それが何も無いのよねぇ」

 やや間延びして返って来た言葉に、今度は心の中で首を傾げる。

「親に訊いても大人に訊いても返ってくるのは同じ理由ばっかり」

「皆が皆『詳しくは知らない』って」

 舞がまひろの後を続けた。

「煙たがるようにその話は早々に打ち切られる」

「だから怪しい」

 最後の舞の言葉に、まひろはコクリと頷いた。

「つまり、隠されてるってことッスか?」

 瞬の問いに、今度はまひろが首を左に傾げた。

「どうかしらね。こういうのって、思い込みがそう匂わせてるって場合も多いから」

「思い込み?」

 和輝が口を挟む。

「そう。金城病院の向かいに墓地がある。そこで怪奇現象が起きている。何も知らない人がこれだけ聞いたら、きっとこの二つを関連付けるでしょう?」

「まぁ、その二つしかワードが出てきてないしな」

 茶化すように言う優弥をよそに、和輝は追撃する。

「でも、その病院の墓地だったんでしょ? だったら……」

「いいえ」

 ピシャリとまひろは否定した。

「墓地は病院が潰れてから建てられたものよ。直接的な関係は無いわ」

 と言ったものの、まひろは考えこむように顔を下に向ける。

 バックミラー越しにそれを察知したのか、代わりに優弥が口を開いた。

「……全く無いとも言い切れないけどな」

「はぁん?」

 少し間の抜けた声で瞬が突っ掛かる。

 優弥は続けた。

「その墓地ってのは、病院が所有していた公園を新しく造り直したんだよ。行きゃ解るが、その時のベンチやブランコなんかはそのまま置いてある。あの井戸だってそうだろうな」

「げっ……誰がそんなモンで遊ぶんだ」

「知るか」

 言葉の終わりと同時に、優弥の車がスピードを落とす。

 誰も通らない歩道の端にゆっくりハンドルを切ると、車は完全に停止した。

「知りたきゃ自分で見てみたら良いだろ?」

 運転席と助手席の隙間から見えたニヤリと笑う優弥の横顔に、和輝は少し背筋を強張らせた。

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