二章:肝試しなんて身から出たアレ

P.32

 一面の黒い景色の中に、紛れるように黒塗りのワゴンが風を押し除ける。

 今日は雨になるだろうか、と和輝は携帯の画面を表示した。

 そこに映し出される天気予報の機能。晴れマークだ。

 それでも和輝は車外を見上げて、雨の予感を感じた。

 車より遥か上の世界では、地上よりも少し明るめな闇が漂っている。

 空の街灯達は姿を見せず、見渡す限りの白いもやは不気味に上空一面を覆っていた。

 携帯機能の天気予報も、全部を信用出来る訳では無い。

 テレビよりかは当たる印象だが。

 せめて夜明けまでに降らなきゃ良いな。

 そんな事を思いながら、和輝は車の進む先へと視線を戻した。

 和輝達が今向かっている金城病院付近へは、瞬の家から歩いて約三十分は掛かると言う。

 この深夜の田舎道で渋滞も起こらないだろうから、それを車で行けば十分も掛かららず到着しそうだ。

 瞬の家での一件があってからか、車内には程良い沈黙が流れていた。

 たまに助手席の瞬が優弥か後ろの三人に振り返って声を掛け、和輝の隣に座る舞が短く反応する位だ。

 イベントに向かうにしては盛り上がりに欠けていたが、和輝にはこれが丁度心地良かった。

 眠気を覚えていたのも有るかもしれない。

 何せ、もう丑三つ時に差し掛かろうとしている。

 期限が迫っている課題か熱中しているゲームでもなければ、和輝は布団に潜っている時間だ。

 優弥のスムーズな運転も相まって、気を抜けば寝息を聞かせてしまいそうだ。

 瞬と舞はそんな様子には見えなかったが、まひろはどうだろう。と少し彼女へ顔を向けてみる。

 変わらない涼やかな瞳にほんのり口角を上げた顔。

 あぁ、多分気持ちは共有出来そうにないな、と和輝は視線を外した。

 このまま病院に行かず、家に逆戻りでもしてくれないだろうか。

 そんな考えさえ湧いて来る。

 正確に言えば行くのは病院の隣にある墓地なのだが、それでも目に見える範囲に廃病院のある墓地というのは中々に恐ろしい。

「そう言えばさ……」

 不意に沈黙を破った声に、全員がハッとなった。

 和輝でさえ、発した自分の声に目が覚めた。

 病院。

 そのワードが頭を過ぎった時、深く考える前に口が動いてしまった。

 車内のバックミラーに映る、優弥の視線が横目に動くのが見えた。

「金城病院って……何で潰れたんだっけ」

 しかし、横と前から返って来る言葉は無かった。

 訊いていて何だが、和輝は答えが無い事が当然のように座席に深くもたれ掛かって質問を終えた。

 それはそうだ。

 一大ニュースになったとかなら兎も角、近所の人間でさえ何時潰れたか判らない一店舗の事情を知る筈がない。

 それでも和輝は、唐突に出て来たこの疑問にどこか引っ掛かりを感じている。

 それが何なのかは、雲の中に浮かぶ星と同じ位に不明瞭なままでいた。

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