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「うーん……まぁ、多少は?」

 首を捻りながら舞は答える。

 和輝は一つ気になる事を思い出した。

 今日の夕方、学校終わりの校門付近の舞の様子だ。

 あの時、急に立ち止まって茂みの中にいる何かを見つめていた様だった。

 出て来たのが優弥だったから、てっきりその影を……はっきり言ってしまうと不審者の姿を見つけてしまったのかと思っていたのだが、まさかあの時『視えて』いたのだろうか。

 だとすればそこに居た優弥は一体何をしていたのだろう。

 よく解らなくなってきた。

 そもそもこれは舞に、本当に霊感が有ると仮定した話だ。

「舞の霊感は本物よ」

 と肯定したのはまひろだ。

「不思議な現象とか体験をする前に、必ず舞が反応するもの。ねぇ? 舞」

「ほぉ、てことはお前も霊感かなんか有んのか」

 身体を前に乗り出して問う優弥に対し、まひろは首を振る。

「いいえ、私はさっぱり。だから羨ましいのよねぇ」

「羨ましい?」

 優弥が更に問うた。

 和輝にも判る問い詰めるような訊き方に、まひろが言葉を詰まらせる。「まさか、冗談でしょう?」と言いたげな顔だった。

「だって、私はずっとそういうのを追っているんだもの。それは羨ましいわよ」

 優弥からの続きは無かった。

「そういうもんかなぁ」

 微妙におかしな間を感じて、和輝が相槌を打ってみる。

 それが共感の言葉ではなかったのは、自分はそう感じた覚えが無いからだ。

 見なくてもいいものをなんで見ようとするのだろう。全然解らない。

 好奇心か?

 情熱か?

 それとも破滅願望か?

 ひっくるめて全部だと言うのなら、申し訳ないが『変わった人』と見られてると思う。

 少なくとも和輝には、そんな自ら非日常を経験してみようなどといった感情はこれっぽっちもなかった。

 これまでは……の話だが。

 今からまさに、和輝は今日、その『全然解らない』非日常へ片足からどっぷりと浸かりに行こうとしているのだ。

「そういうものよ。さ、そろそろ行きましょう? きっと彼女も待ちくたびれてるわ」

「彼女って?」

 和輝が即座に問う。

 するとまひろは、スッとビデオデッキに指をさした。

 皆がその指先に視線を集める中でまひろは短く、ゆっくり、こう答えるのだった。

「彼女」

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