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 その質問を受けても、まひろはただ首を傾げるだけだった。

「さぁ……? でも、これで信憑性が出てきたでしょ?」

 ここで和輝は頭を悩ませた。

 『信憑性』とは。

 人の話の信用出来る度合いを指す言葉だ。

 ではこの場合の信憑性とは、何を指しているのだろうか。

 これまでの話の流れと体験が和輝の脳内で絡み合っていく。

 その先には、どうやっても一つの答えしか用意されていなかった。

「まさか、今から行く所って……」

「えぇ、今の墓地よ」

 一呼吸の間も置かず、あっけらかんとまひろは言い放った。

「完璧に呪われたな、俺ら」

 天井を仰ぐ瞬が、溜息混じりに言葉を吐き出した。

 巻き込んだ側である筈の瞬は、いつの間にか巻き込まれた側に態度を一変させている。

 彼にしてみれば肝試しは付属品。

 お化け屋敷程度のイベントだったのだろうし、メインはそっちではなかったはずだ。

 それが目の前で非日常な体験をしてしまった今では、そうも言っていられなくなった。

 神谷まひろの情熱を甘く見ていた。

 そのまひろは相も変わらず少しも動揺した態度を見せず、むしろ何処か嬉々とした表情で足を崩して座り直した。

 予想外だったのは、それまで無関心そうだった優弥だ。

「行くのは良いんだが」

 徐に優弥は喋り出す。

「いや、行くのは良いんだが。どうやって行くつもりだ? ここから病院まで割と距離あるぞ」

 和輝も頭の中の地図を使って時間を計算してみる。が、途中の複雑な道のりのせいか、上手く場所を辿る事が出来ない。

「……そんなに掛かるっけ?」

 つい、そう口に出して訊いてしまった。

「そうだな……歩くなら、三、四十分は見といた方がいいな」

 優弥からはすぐに返答が来た。

 歩いて行けない距離ではないが、往復すると約一時間。

 墓地の中に入るなら肝試し中も歩くだろうから、倍は歩くかもしれない。

 行きはよいよい……となるのは勘弁だ。

 折角の美女二人との夜遊びも、疲労が勝るのが見えていれば行く気が失せる。

 それでなくとも既に怖い思いをしているのに。

 逆に言えば、大幅に移動時間を減らしてくれるような、魔法の道具でもあれば話は変わってくるのだが。

「……ん?」

 まひろと混乱の収まった舞の視線が刺さっているのを感じて、優弥は最後の言葉からそのまま疑問符を打った。

「城戸さん、今日お酒飲んだ?」

 舞が問う。

「いや、別に……」

「あなた、コンビニまでどうやって来たの?」

 続けてまひろも問い掛ける。

「近くのパーキングに……おい、ちょっと待て」

 何かを察した優弥は、途端に眉間に皺を寄せた。

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