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 その言葉に応じる者が誰も居ないのを見て、優弥はコンセントを投げ捨てて続ける。

「でも元々こういう体験をしに行くんだったな。もう一回差し込んでやろうか? ん?」

「いや充分ご馳走様でしたッ!!」

 差し込み口とコンセントが再び触れ合いそうになるのを見て、瞬が慌てて止めた。

 終わった。

 本当に舞もまひろも予期しなかったビデオの呪いとやらなら、電源を抜いたくらいで解決出来たのか一抹の不安が残るが、とにかく終わった。

 どうにか出来た、と言っても良い。

 いつの間にか入りっぱなしだった肩の力が抜けていくのを感じて、和輝は初めて安堵の息を大きく吐いた。

「まぁこれで問題無いだろ。なぁ、本条」

 特に取り乱した様子のない優弥を見ると安心できる。

 先の解決策を提示したまひろではなく舞を呼んだのは少し疑問だったが、コクコクと頷く彼女を見るになにか知っているのかもしれない。

「うん……多分……」

 すっかり身体が丸まってしまった舞は、自身無さ気にそう答えた。

 そんな彼女を励ますつもりだったのか、瞬は舞とまひろを交互に見て考えながら口を開いた。

「……ほんとはビデオの中、ちゃんと観てなかったんじゃ」

「それは無いわ」

 おずおずと発言した瞬を、まひろは一蹴する。

「ビデオの時間は約四分。正確に言えば三分五十二秒ね」

 やはり、前もってちゃんと観ていたようだ。

 まひろは続ける。

「最初は砂嵐……一分くらいでさっきの井戸に切り替わるの。その後は何も進展無しで、最後の二十秒くらいがまた砂嵐に切り替わるだけよ」

 和輝は部屋にある置時計に目が行った。

 正確に計っていた訳ではないが、ビデオを強制終了させた後の時間を考えても、見始めてから十分近くは経過しているように思う。

 あの時、舞が頻りに携帯を見ていたのは、体感的に終了予定を過ぎている事に疑問を抱いたからなのだろう。

「じゃあ、ビデオが編集されてた……とかは」

 今度は和輝が質問してみた。

 特に何か意図が有っての質問ではなかったが、考えられる平和な可能性を信じてみたかった。

 それもまひろの首が横に動いた瞬間に潰されてしまったのだが。

「再生する度に映像が変わるってこと? それこそ無いわ。現代のネット動画じゃないんだし、カセットテープにそこまでの仕掛けを作るなんて……断言はしないけど、無理だと思うわ」

「えーと、つまり……」

 右手で自身の首筋を擦りながら、瞬は言いにくそうに声を出した。

「これはいわゆる『マジモン』ってやつですかね」

 テレビのそばではローテーブルの角に腰を下ろした優弥が、裏側に手を回してコンセントを再び拾おうとしているのが見えた。

 何ならもう一度確認してみるか。と聞こえてきそうなその動きには、今度は瞬と和輝の二人掛かりで止めさせた。

 少しつまらなさそうにしている優弥を余所に、舞がまひろへ問う。

「ねぇ、まひろ……どうなってんの?」

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