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ようやく乱れの少なくなった画面の中には、端から端まで広がった木々と、それらに囲まれ中央に物々しく鎮座する、人一人がすっぽり収まれそうな井戸。
井戸の周囲だけは草木も生えておらず、それは整地されているというより、井戸から何かしらの瘴気が放たれていそうな、そんな廃れ方だった。
代わりに、といってはなんだが、井戸の真後ろにそびえる巨樹がいやに目立つ。
虫の一匹も映り込んでこないのは画質が荒いからだろうか。
昼か夜かの判別もしづらい。
時々、風で葉っぱが揺れうごくのが確認できなければ、ずっと静止画が流されていると勘違いしてもおかしくはないだろう。
「ん……これ、なんかで見たことないか?」
不意に、優弥が口走った。
和輝にも見覚えがある。
恐らくこの場の全員が頭に同じものを想像した筈だ。
例え忘れていたとしても、瞬の言葉が記憶の引き出しを引っ張った。
「あ、アレだ。あの映画になったやつ……なんとか子」
そう、それだ。
そのたった二文字を懸命に捻りだす瞬の横で、和輝もその『なんとか子』のワンシーンとあまりに酷似した画面を凝視していた。
だがあれはフィクションだ。
それがわかっていれば、このビデオだって紛れもない偽物だ。嘘っぱちだ。
半ば自分に言い聞かせるようにそう念じた和輝は、このビデオを持ちこんだ二人、舞とまひろをチラリと見た。
二人はいたって冷静にカーペットの上に座ってビデオを眺めている。
真剣、よりも楽し気な笑みを浮かべていることからも、ビデオを観てきたという点は間違ってないだろう。
その様子から、同時にこのビデオが安全であると保証できる。
もしかしたら、突然画面いっぱいに化け物の顔が映るドッキリ映像の可能性もあるが。
「だけど、これだけじゃなぁ。ただ不気味な井戸観てるだけじゃね?」
一向に変わらない画面に痺れを切らした優弥が、前傾姿勢から壁に背中を預けた。
「いいえ、それだけじゃないわ」
舞の向こうで、美しい口角がニタりと上がったのを和輝は見逃さなかった。
「気になるのはこの映像よ。これ、どこかで見たことない?」
「え、だから瞬の言った映画のやつだろ?」
瞬時に和輝は返す。
しかし、まひろはそんな和輝を見返して首を横にゆっくりと振った。
代わりに亜麻色の髪が和輝とまひろの間に挟みこまれる。
「違う違う! この場所だよ! ほら、よーく観て」
促されて再度画面を凝視する。が、いくら隅から隅まで観ても和輝には目ぼしい場所は見つからない。
そんな時、瞬が何かに気付いて声を上げた。
「あ、これあそこじゃね? 廃病院の向かい側の……」
「廃病院ってあの金城病院のことか?」
瞬の言葉を優弥が補ったところで、得たり、と舞が笑顔を見せる。
「ビンゴォ! あの向かいって、病院が潰れたあとに墓地が建てられたんだよねぇ」
金城病院、というのは和輝も聞いたことがある。
地元では代表的な中規模の病院として広く知れ渡っていた所だ。
大きな病気や怪我なら金城。
和輝も、小学生の頃だかに親に連れていかれたことを思い出した。
あの時は風邪だったか。
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