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「ビデオテープ……?」
それまで組んでいた腕を解いて前のめりにテープを見て呟くと、横から舞の顔が覗き込んだ。
「そ! でも、ただのビデオじゃないんだなぁ」
舞がそう告げた時、和輝はなぜか途端に背中に冷水を流されたような、妙な感覚を得た。
運悪く怖い先生の時に授業の教科書を忘れてしまったりだとか、約束の時間を一時間過ぎて寝坊していただとか、そんな焦りの混じった怖さでは断じてない。
飽くまで想像で例えるならば、世界からいきなり太陽その他一切の光源が失われたみたいな、未知の恐怖をこの小さな箱の中に感じた。
舞とまひろはこのビデオを観たのだろうか?
いや、愚問だ。
舞は『ただのビデオじゃない』と言った。まひろは『観てほしいものがある』と言っていた。
どちらも先に見ていなければ出てこない台詞だろう。
では何故そんな疑問を抱いたかと言うと、和輝自身がこのビデオを観たくないと思ったからだ。
子供の度を過ぎた悪ふざけのように、判りきった悪事に手を染めたくないと思ってしまったからだった。
「じゃ、御堂君。流してみてくれる?」
結局声の大きいほうに流されてしまうことさえ、子供の時と変わりはない。
「ま、とりあえず観てよ」
「はいはぁーい!」
まひろから舞へ、舞から瞬へと渡されたビデオテープは、銀色の口の中に吸い込まれていった。
テレビのスイッチは予め入れて置いたままだったのか、ビデオの再生ボタンを押すと同時に、画面に一瞬白線が横切る。
ここにきて、和輝は自分が声を発せていないことに突然気付いた。
目の前では薄型テレビが数回黒と白を点滅させた後、ホワイトノイズに似た音を出して砂嵐を映し出す。
呼吸が落ち着かない。
喉の渇きが一層速く感じる。
しかし、そんなある種の期待とは裏腹にテレビ画面は砂嵐から一向に画面を変えようとする気配が無い。
「なんだこれ。砂嵐しか映らねぇな」
ビデオを差し込んでからものの数十秒の沈黙が続いたところで、優弥の低音がそれを途切れさせた。
「もうちょっと待ってるの! すぐ映るから……あ、ほら」
舞が画面を指差す。
灰色混じりの白黒が大きく乱れ、そして、ビデオは色の無い不気味な画面をその中に再生させた。
撮り方の問題か劣化なのかは判らないが、乱れが激しく目を凝らして観なければ何が映っているか判別しづらい。
傍の男二人もわずかに喉を鳴らすだけで大した反応は見せず、ただ自分と似た反応だった事で、和輝の不安が少し解消された。
ふと横を見てみる。
瞬は胡坐を掻いて前のめりに画面に喰いつき、優弥は片足を立てて同じ物に眉間を寄せていた。
そうして改めて画面に集中すると、画面の中に一つだけハッキリと映るものが見えた。
「……井戸……?」
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